「シッ!」僕は、自分の唇に指を当てた。
「アパートの人に聞かれちゃうよ」
「こんなボロ家に誰も住んでないわよ」
彼女は声を抑えようとはしなかった。
「銃声がしても、誰一人尋ねてこないんだからね。病院なんて絶対に連れて行かないわ。私、こいつのために、もう不幸になりたくないの。一緒に逃げましょう、いいでしょう、アシェル?」
彼女は、僕の両手を握って、懇願するような目で見てきた。逃げるにしてもどこへ? 第一、高校があるし、お婆ちゃんの家に行ったところですぐに捕まってしまうだろう。
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