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水深800メートルのシューベルト|第216話

 内緒の話なのかな? 僕は、ママがそわそわしているのに気づいた。手元が何度か耳のピアスや顎先に触れていた。

「なあに、お話って」
「アシェル、あなたはこの先どうするの?」 
 僕は、何度もお婆ちゃんと話題にしてきたことを口にした。

「会計士になるんだ。もうすぐ九年生(ハイスクールの一年目)になるから勉強して、経営ビジネス経済エコノミックのある大学に進学できるようにならないと。数学は得意なんだよ」

 その答えに彼女は顔を曇らせていた。
「そうじゃなくて……、いつまでもオリビアさんの……いや……こんなオークランドに住むつもりなの?」

 喜んでくれると思ったのに、ママは会計士が気に入らないのだろうか? きっとブランクがあって、ママの望む答えを言えなかっただけだ。

 こういう時は黙って、彼女が何かを言うのを待つのが一番だと、少し下を向いた。

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