
水深800メートルのシューベルト|第806話
唯一の味方のように話しかけてくれた存在を後ろに感じると、心臓にひんやりした風が吹きつけてくるような寂しさをおぼえた。
こんな気持ちでもう走り続けることは無理だった。トラックから内側のストレッチエリアに外れて、ゆっくりと歩いた。その間に呼吸を整えて、ストレッチをするふりでもして時間を潰そう。そう考えた。後ろを走っていた彼女も、続いてトラックから外れて傍にやってきた。僕の肩に手を置くと、周りから囃し立てるような口笛がどこからか聞こえてきたが、それを気に留める様子もなく、僕に話しかけてきた。
「やけになっちゃ駄目。アシェルの悪い癖だわ。すぐに自分を捨てようとするところ」
「なってないよ。悪かったよ、でも、どうしようもないんだ」