水深800メートルのシューベルト|第1095話
「脱出用装具を被って、脱出筒で出る気か? よく考えるんだな。水圧で押し潰されるか減圧症にかかるかして終わるだろうぜ」
僕は、一度だけ説明を受けた脱出法の話を思い出した。頭のフードと救命胴衣がセットになったオレンジ色の装具を試しに着たことがあるが、あんな頼りないもので、脱出したところで……。僕なら、その後待ち受ける運命を想像するだけでとても乗る気になれないと思い、小さく首を振った。
セペタが口を開いた。
「個人脱出は最後の手段だ。それまで救援を待てばいいんだ。慌てるなよ」
「ああ、でも無理そうなら俺ひとりでも抜けてやるぜ」
ロバートは、軽蔑したような目つきをしたボブを睨むようにして言った。