水深800メートルのシューベルト|第219話
ママは僕が混乱しているとは豪も疑わずに続けた。
「でね、この全米一治安が悪いオークランドなんか引っ越して、サンフランシスコに住むの。ママ、今そこにいるのよ。わかる? パパが亡くなった病院のあった場所の近く。あそこはここみたいにドラッグの売人なんか少ないし、空も空気もキレイなのよ。ここから橋を渡るだけで別世界よ。それでアシェルは秋からサンフランシスコの学校に進学すればいいじゃない? 素敵な街よ、きっと気に入るわ。手続きだったらきっとなんとかなるわ」
僕は、ふと彼女の懐具合が気になった。『素敵な街』は家賃もそれなりにするだろうと思ったのだ。
「ママ、ホリスターに住まないの? 働いているの? お金は……」