ママは、赤ちゃんを抱いている両腕を器用にずらし、赤ちゃんを抱いたまま、ペンを握って弁護士の持つクリップボードに書きつけていた。
「これでいいわね」と、ママは満足したように言った。ラスウェルさんは手早く書類を住まうと、僕に帰る合図を目で送ってきた。
「ねえ、アシェル?」
何か思いついたのか、ママの声が、急に甘いものに変わった。
「オリビアさんの預金、ママが預かっておこうか? そうしたら、そこからあなたのアパートの家賃が払えて便利だし、あんたが無駄遣いをするのも防げるわ」
僕は、どう返事をしたものか困った。預金をゲイルさんが使い込んだりしないのだろうか?
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