見出し画像

水深800メートルのシューベルト|第643話

ママは、赤ちゃんを抱いている両腕を器用にずらし、赤ちゃんを抱いたまま、ペンを握って弁護士の持つクリップボードに書きつけていた。
「これでいいわね」と、ママは満足したように言った。ラスウェルさんは手早く書類を住まうと、僕に帰る合図を目で送ってきた。


「ねえ、アシェル?」
 何か思いついたのか、ママの声が、急に甘いものに変わった。
「オリビアさんの預金、ママが預かっておこうか? そうしたら、そこからあなたのアパートの家賃が払えて便利だし、あんたが無駄遣いをするのも防げるわ」


 僕は、どう返事をしたものか困った。預金をゲイルさんが使い込んだりしないのだろうか?

     第642話へ戻る 第644話へつづく

いいなと思ったら応援しよう!