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水深800メートルのシューベルト|第434話
彼女は、周囲を見回して、一瞬、僕らの方を見つめたが、関心がないというように、すぐに店の方に目を向けた。店の軒先に立つと、ちらっと窓から店内を覗き込んで、微笑みを浮かべていた。
「おいアシェル、行ってこいよ。これ、余ったら返せよ」
ブライアントが、百ドル札を数えて寄こしてきた。
「ほ、本当に行くの? 今度にしない?」
ここに至って、急に恥ずかしくなった。僕は、うつむいて、ちらちらとメイソンの方を見た。
「盗るんじゃなくて買うんだから、簡単だろ? お前のために運転してここまで来てやったんだ。お前って、いつも俺に反抗するよな」
メイソンは、鼻を鳴らして僕を見下ろしていた。なぜ、彼は僕を無理にでも従わせようとするのか不思議だった。