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水深800メートルのシューベルト|第802話
足が重かった。きっと、筋肉が疲れたとか心肺機能が落ちたとかではなく心の中のガソリンが無くなってしまったからだろう。それでも頭を空っぽにしていると、乱れていた息が苦しさに慣れるにつれて整っていき、足のだるさも段々と気にならなくなった。気分も少しずつ良くなり、周囲の冷たい感情のカーテンのようなまとわりつきも、溶けていくような気がした。
背中にゴンと軽く肘で突かれた感触があった。またか、どうせ最近はやりの嫌がらせだ、そう思って無視していると、今度は頭をはたかれた。最近、わざとぶつかってくる輩が増えた。落ちこぼれた人間への嫌がらせだろう。そのくせ、そいつらの顔を見ると、皆知らないふりをして目を逸らしている。うんざりした気持ちで、怒鳴ってやろうか無視し続けようかと迷っていると、はたいてくる手の主が真横に並んできた。褐色の肌の女の子、トリーシャだった。