しかし、そんな幸福も長くは続かなかった。ライフジャケットの空気が沈むことを拒否し、大量の水のベッドは僕を水面へと押し戻した。それと同時に、何本もの手が、ジャケット、中のシャツ、腕と、所かまわず乱暴に掴んできて、引っ張り上げてきた。
ボートに戻った時には、放水はすでに止んでいた。代わりに周囲の同期の棘のような言葉が――教官にはバレないような小さな棘が――僕を刺してきた。
いい加減にしろよ、またこいつか役立たず、ああ腕がもうパンパンだよ。
「全員、腕立て五十回。早く上がれ!」
ボートを岸につけるや否や、軍曹は命令した。
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