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水深800メートルのシューベルト|第583話
「小さい時に会っているんです。彼女、前にアパートに行った時、顔に傷がありました。昔、彼女に初めて会った時も……、僕のパパかモニカおばさんに……。きっと、逃げ出したかっただけなんです。だから……、僕が持ち歩いていた……拳銃を盗んで……」(と僕は言った。)
「おい、こいつは何も知らないうちに銃を盗まれて、その後も、何も知らないうちに殺害現場に立ち会っただけなんだぜ」
ナージフさんは、庇おうとしてくれたのか、僕が道すがら話した内容を説明しようとした。
「あんたは黙っていてくれ」
弁護士は、頭を小さく振った。
「問題は……、陪審員がどう思うかだ。しかし、こんなギャングの使い走りのような奴が、大それた事件を起こすとは思われないかもしれん……ううん……そうだ……いやそれでは……」
彼の目は閉じたかと思うと、急に開いて上の方を見るといったように、せわしなく動いていた。