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水深800メートルのシューベルト|第105話

 ペチペチという足音が大きくなりこちらに近づいてきた。僕は怯えてママの背中の服を引っ張りながら音の方向に目をやっていると、息もたえだえに顔から首元まで髭をたくわえた大男が、ホールに姿を現した。
 全身が黄色くなっていたが、パパに違いなかった。周囲を焦点が合わないかのようにぼんやりと見つめ、空を飛ぶ蚊を捉えようとしているのか、手を激しく振るわせ、時折握り潰していた。すぐ後ろから、見覚えのある赤紫の服を着た女の人が追いかけてきた。

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