水深800メートルのシューベルト|第1105話
「俺は諦めないぜ。個人脱出でも何でもやってやるからな」
その声に誰も応えなかった。これ以上自分の力ではどうにもならない事態に、あれこれ議論を重ねても時間と酸素の無駄だとわかっていたからだ。ただ、無視するつもりはないという気持ちを表そうと僕はロバートの目をちらっと見た。セペタは彼に無言で頷いていた。
僕はベッドから下に降りた。セペタが不安そうな顔をしたが、もう体が宙に浮くような感覚は無くなっていた。足は鉄の床からの抵抗を受け止め、背骨は曲がらずぼんやりとした頭を支えていた。セペタに指先で艦の後方を指して職場に行く意思を示すと、彼に意味が通じたのかどうかはわからないが、目を動かしただけで止めようとはしなかった。