ここから逃げ出したくなったが、それもずるい考えのような気がして動けなかった。メリンダは、僕の胸の内を見抜いているようだった。
「面倒だよね? 怒ってる?」
僕は首を振った。
「ありがとう」
彼女は別れのキスを頬にしてきた。今度は、彼女の唇の横の紫色が近づいてきたので、唇が触れた瞬間、その痛みも伝わってきて居たたまれない思いになった。
階段を降りる直前、「アシェル」と呼び止められたので、振り向くと彼女は手を振った。
「ごめんね」
その言葉は耳に重く響いた。じっと顔を見ると、彼女は泣き出しそうだと思った。
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