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水深800メートルのシューベルト|第73話
パパは、それ(逃げたリス)を見て慌ててナイフを振り下ろしたが、幹にガツンと音を立てただけだった。木の皮が少し削れて、僕はそれがかからないように目をつむった。次に目を開くと、パパは怒りに任せて僕の眼の前にある草をなぎ払った。小さな緑の紙片のようなものが、宙を舞った。
「このクソガキ! お前は俺様の仕事を何度邪魔したら……、うっ……うぷ」
パパは途中でまたもどしそうになり、ナイフを捨てて口に手を当てた。体全体からせり上がってくるものを受け止めようとしていた。しかし、受けとめきれず、手の隙間からは、いつか見たダムの壊れる映画みたいに液体がドバっとあふれてきた。
よく見ると、液体の色は――深い赤だった。