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水深800メートルのシューベルト|第894話

「では、なれそめは次回訊くことにしよう。アシェル、子どもに思う存分子守唄を演奏してやりなよ」
 セペタは大きな手で僕の方に手をやると、そのままキャディラックに乗り込んだ。何度かエンジンが空回りする音の後に、発火音が鳴って車体が震え、元来た砂利をタイヤで擦りつけながら去って行った。


 車が見えなくなるまで手を振ってから、再びバルコニーに目を向けたが、変わらず誰もいなかった。そそくさと、アパートメントの玄関をくぐり、絨毯が敷き詰められた階段を登って二階に行くと、僕は鍵のかかっていないドアを開けた。

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