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水深800メートルのシューベルト|第528話
僕は、彼女(メリンダ)の手を振りほどいて言った。
「無理だよ」
「なによ! 私を連れ出してくれるんじゃなかったの」
彼女は責めるような口調で言ったが、すぐに憂鬱に襲われたようになって、黙り込み、しばらく経ってから顔を上げた。
「ごめんなさい、私が殺したんだものね。アシェルには関係ないものね」
「そんな、関係ないなんて言わないでよ」
僕は、突き放されたような気がして、慌てて彼女の手を握った。
「でも、どうしよう。おばさんはどこかに隠したほうがいいと思うんだけど」
そう言いながらも、どこへという疑問が湧いてきた。二人で運べばきっと誰かに見つかってしまう。かといって、部屋に放置しておくと、きっと腐って酷い臭いを発するだろう。