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小説:Limit ~無限の彼方に~  第一章 殺人は柚子の香り 第17話

~~あらすじ 第16話までの内容を忘れた、ココから読み始める方へ~~

藍雛らんじゅは敵組織『ソドム復活委員会』のメンバーであるレイカを追跡する任務に就いていた。レイカ達は、他の時代や空間への行き来ができる『時の回廊』を飛んでいた。藍雛の予想に反して、レイカは4歳児の姿になって藍雛の幼馴染みである洋希ようきが2歳である22年前の世界に降り立ち、彼を柚子アレルギーに見せかけて暗殺しようとする。藍雛は他の時間軸の世界に降りることはタブーだと聞いていたので、レイカの行動に驚くも、時の回廊内から、新型ブラスターで、レイカを始末しようと考える。だが、洋希を巻き添えにすることにためらう藍雛。彼女の脳裏には、洋希と過ごした夜の出来事が思い浮かぶ。思い出から我にかえった藍雛は、今度は、狙いを洋希の治療へと切り替え、二発の薬剤混入ブラスター弾を発射する。浴室内は発煙し、浴室から脱出して拳銃を構えるレイカ。洋希は症状が改善して立ち上がり、浴室の向こうから誰かが助けに来ることを予感する。その時洋希の幼稚園の同級生、一ノ関いちのせき耀馬ようまエリオットが洋希の家に向かっていた。向かう途中、その日幼稚園での出来事を思い出していた。耀馬は感情が押えられなくなり暴れ、上半身の筋肉が巨大化し壁を破壊する。彼の感情の波を鎮めたのは洋希だった。そのあと、四歳児のレイカが教室にやって来て、自分の仕事を始めたのだ。洋希はそれが気になっていた。

     ~~本編~~

 その様子を遠くから見ていた耀馬ようまは、物珍しさと、彼女に洋希ようきをとられたような嫉妬心で、レイカの手書き地図へと誘引されていた。レイカもまた、いつの間にか近くに来た二歳児の中では飛びぬけて背の高い男の子に興味の視線を注いだ。だが、この二歳児の目が必ずしも自分への好意ではないことに気づくと、すぐに視線を洋希向けて、地図の説明を始めた。


「それでね、このグリーンランドって所は、海賊が住んでいたのよ。海賊っていうのは……」
 洋希は、彼女の言葉を一語も理解することができず、ただピンクの美しさに魅かれて「あーうー。あーあ」と声を発しながら、地図の島を指した。耀馬は洋希の心が自分から離れたことに、ハンマーの時ほどではないものの、小さな怒りを含んだ目でレイカの顔を凝視した。幼児なりに、彼女が自分より遥かに落ち着いており、頭も良いことを、その眼や口ぶりから感じ取ると、自分が圧倒されそうな気分に陥った。だが、ここで負けてはいけないと思ったのか、レイカが一瞬黙った時を見計らって、彼は抗議するようにぐいと前にせり出してきた。


「君はだあれ? 他のクラスの子だよね?」
 レイカは、その強い調子に、それとは気取られぬほどの驚きを感じたが、取り乱さなれない調子で答えた。


「レイカよ。飯村いいむらレイカっていうの。君は?」
「一ノ関耀馬エリオットだ。どうして青い服を着ている子がここにいるの? ここに来ちゃいけないんだと思う」
 彼は顔を上気させながら言った。それに対してレイカは、自分が先生から許可を貰っていることを説明すべきかどうか迷った。迷いながら耀馬の目をじっと見つめる。青い目なんて珍しい、テレビで見た外国の子みたい、彼女は自分を真っ直ぐに見つめるその目に小さな怒りがこめられているのを感じ取ると、反抗心がむくむくともたげてきた。


「いいのよ、何色の服を着ている子だって、ここでお仕事をしてもいいんだから。ねえ、洋ちゃん」
「ああ、あーあ」
 喃語で答えた洋希にも耀馬は苛立ちを感じた。


「洋ちゃん、ほら、あっちに行こうよ! 僕がお仕事を教えてあげるから」
 耀馬が彼の手を引いていこうとし、レイカがそれに対してむっとして立ち上がった時、様子を窺っていた老先生が三人の中に入ってきた。


「ほらほら、耀馬君も、洋希君も、レイカちゃんがお仕事をしているんだから。あなたたちには、自分のお仕事があるでしょう?」
 男の子二人は先生に手を引かれて、その場から移動させられた。


 何か気に食わない。言葉の発達が早いとはいえ、耀馬の頭の中にレイカへの感情が言語としてこのようにはっきりと浮かんだわけではない。だが、彼女への嫉妬心と威風堂々とした態度に対する競争心が、連れ去られながらも彼の目を彼女に釘付けにさせていた。彼女は、その視線を受け止めることもなく、ひたすらグリーンランドをピンク色に染めている。その日の耀馬は、気もそぞろに、先生から提案された仕事を少しこなしては、年上の女の子に目をやる、そんな過ごし方をして、母親をやきもきさせていた。

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