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水深800メートルのシューベルト|第66話

 脂のついた指を舐めとっていると、遠くで車が近づいてくる音が聞こえた。きっとママじゃないな。希望を持たず、このトレーラーで待つことにすると、ブロ、ブロロとエンジンが止まりそうな音がして、やがて青い鳥――コマツグミだとママが教えてくれた――の声に置きかわった。
 いつまでも待ったが、トレーラーのドアが開く音は一向に聞こえてこなかった。もしかしたら、パパは僕が迎えに行かなかったから怒っているのかもしれない。ひりひりしたお尻が、その怖さを教えてくれた。
 ポテトチップスの袋を膨らんだゴミ箱に押し込むと、鉄の扉を開けて外の風を体に浴びた。

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