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水深800メートルのシューベルト|第946話

 メリンダは、名残惜しそうに後ずさりすると、背をくるりと向けて、ジョーやゲイルさんのすぐ脇を通り抜けて出て行った。二人は彼女と目を合わせたが、誰も何も言わなかった。ゲイルさんは彼女の背中をずっと目で追っていたが、彼女が見えなくなると、僕の方へ近づいて来た。


「おい、行っちまったぞ。話は済んだのか?」
 僕は答えた。
「はい、終わりました」


 詳しい事は訊かれなかったし、僕も言葉を見つけられなかった。別れを予期したが、口にしたくなかった。本当に再会の見込みが無くなってしまう気がしたからだ。僕の弱さはそこにあるのかもしれない。

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