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水深800メートルのシューベルト|第922話

「手紙に連絡先を入れてくれればよかったのに」
 僕は、まだいないけどすぐに来ると嬉しそうに手を握り直してくる彼女に言った。


「ここで待っていたという事だけで満足なの。ほら、連絡先を書いちゃったら、期待するでしょう? 何日も、何か月も、何年も。そうしてアシェルをひたすら待ってお婆ちゃんになる。それは嫌だったの」
 手をずっと握られていたので恥ずかしくなってきた。それに、ここをトリーシャに見られたらきっと嫉妬されてしまう。しかし彼女は、僕に自由にしていいよと言ってくれたし、手なんかなんでもない。そう言い聞かせていると、メリンダは続けて言った。


「この日あたりが休暇になるってゲイルさんから聞いていたの。だから、その前の日からお昼にここで待ってた。一目会えればそれで良いって」

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