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水深800メートルのシューベルト|第312話

「なあ、サンフランシスコに行くのかい?」
 馬鹿なことを大声で訊いたものだと思った。この橋はサンフランシスコに通じる橋だというのは、誰でも知っていることなのに。そこで、僕は慌てて言い添えた。


「サンフランシスコを抜けて、ロスにでも行くのかい?」
 大きな声でもう一度訪ねたが、メイソンは「うるさい、黙ってろよ。時と場を考えろ」と怒鳴ったきりだった。


 どうやら、車線を変えたいのに、並走する車が同じくらいのスピードで飛ばしているので、そっちに移れなくて苛立っているようだった。彼はハンドルを小刻みに回し、その度に車体が左右に何度も揺れていた。

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