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水深800メートルのシューベルト|第592話
ドアをできるだけ静かに開けたのに、そこにいた全員が僕に気づいて振り返り、時が止まったように動かずに僕を見つめた。それまでみんな、真剣で怖い顔をしていたが、僕を見た時の反応は、不審禅な笑みを浮かべる人、疲れを一気に噴き出したような顔をした人、目に涙を浮かべて顔をそむけた人とバラバラだった。心臓マッサージをしていた人の手も止まると、先ほどまで何度も聞いた「ピー!」という音が機械から鳴り、近くの女の人がボタンを押すと、その音はすぐに鳴りやんだ。
ボタンを押した女の人がすぐに近くに寄って来て、腰を少し屈めて話しかけてきた。
「ええと、ご家族の方ですね。他にご家族か親戚の方は来ていますか?」
僕は、黙って首を振った。