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水深800メートルのシューベルト|第644話

「ねえ、そうしなさいよ」ママは、さっきよりも強く勧めるように言ってきた。


「ママも、ゲイルの給料だけでは生活が大変なのよ。彼のご両親も歳だし……。あなたが成人するまで、あなたのものになった預金をママが管理するの。ママの方の生活費が足りなくなったら、少しそこから借りて……、すぐに埋め合わせするわ。こういう時に助け合うのが家族でしょう? その代わり、彼がレジデントを終えて給料が増えて広い家に引っ越したら、アシェルも家にきて一緒に暮らしてもいいわ。悪くない話でしょう?」


 僕は、ママの目を見てじっと考えていた。ママと一緒に暮らす、以前なら嬉しかっただろう言葉に素直に喜べなかった。ママの胸元には、すでに可愛がる存在がいる、それにゲイルにもべったりだろう。そうなったら一緒に住んだところで居場所がない、そう思った。

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