水深800メートルのシューベルト|第1150話
真っ白な顔色だったが、表情は生きていた時のような柔らかで穏やかなものだった。顎や頬に髭が密生していた。目は満足そうに閉じられていた。これから始まる希望と絶望の狭間で苦しまなくて済んだといったように。じっとその顔を見つめてから、瞼、鼻、頬や顎の髭にそっと触れた。彼の最期の顔つきをジョーに伝えてやらなければ。しかし、どうやって? もう自分達も助かる道はないのだろう。それに気づいて絶望して……、彼は……、いや、違う。
彼の満足そうな表情を見ているうちに、僕はこう思えてきた。たとえ違っていても、こう思うことにした。
彼は、僕らを一秒でも長く生かすために、少しでも空気を吸わせるために、自ら犠牲になった。だが、なぜ、ユースレスな僕より早く、先に旅立った? 彼の死をどう解釈しようと、戸惑いは残る。答えをくれる人がいないかと振り向き、艦長を見たが、彼は目を閉じていた。