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エッセイ|メガネ君への応援歌

 今日の会議、お疲れ様でした。司会で議長のあなたも大変でしたね。社内美化運動の時間をいつにするという議題で紛糾していましたね。矛盾する意見が出ていて、議長はどのように意見をまとめたらいいのか、困っていましたね。

 私は、外部のオブザーバーとして会議に参加しているので、助言はできても、貴社の方針に口を出すようなことはしません。ただ、私個人、あなたに対して前々から気になっていたことがあります。

 議長は、いつも温和で朗らか、人当たりが良くて、物腰が柔らかく、会議前の打ち合わせも丁寧にして下さるので、感謝しております。打ち合わせにミスがなく、書類も丁寧です。お陰様で気持ち良く仕事ができております。

 ところが、そんな素晴らしい長所があるのに、あなたはいざ会議が始まると、いつも声の大きな人、強面の社員、地位の高い人の意見に動揺し、目が泳いでいます。フリーズしていることもあります。時々、私にヘルプを求めて視線を送ってきていますね。私の知識で助けられる場面では援助を惜しみませんが、外部の私には、貴社に介入できない事も多いです。

 大抵もめる議題は、「正しい事は何か」ではなくて、貴社の価値観に関するところです。清掃する時間帯をいつにするかなんて、全社員が満足するポイントなど、あるわけがないのです。様々な人の意見を聞いて、調整する必要はありますが、最終的にはあなたが決断するしかないのです。

 会議中の、いつも困ったあなたの顔を見ていて思ったのですが、議長の中には「核」というものがありますか? 私も長年貴社の会議に参加していて思うのですが、議長は、只の進行役に甘んじているのではないでしょうか。それでは、強い人、影響力のある人の意見に流されるだけで、会議はまとまりません。様々な意見を受けとめ、重みをつけ、根拠を確認し、あなたの考えを基準点にして決断するしかないのです。そのあなたの考えを形作るものが「核」です。言い換えると、信念や、仕事に対する姿勢と言ってもいいかもしれません。あなたはどんな仕事をしたいのか、この会社はどうあるべきかと思っているのか、自分がどんな人間だと周囲に呈示したいのか、これをはっきりさせて下さい。今のあなたは川面に浮かぶ笹舟のように頼りなげです。

 別に頑固になれと言っているわけではありません。意見がまとまらなかったら、一旦保留にして考えればいいのです。はっきりと「他でも意見を聞いて調整します」と言えばいいのです。会議中に無理に結論を出さなくてもいいのです。できないことを無理にしようとするから目が泳ぐのです。議長として、堂々としてください。あなたは専門職の資格で議長をしているのですから、プライドを持って欲しいと思っています。

 ところで、本当に議長に「核」というものはないのでしょうか? もしそうであれば、作っておくことをお勧めします。あなたは、どうやら社内ではエリートのようですね。きっと、更に昇進されることと思います。でも、信念を持たずに人の上に立つと困ったことになります。上司と部下の板挟みになった時、強い方の意見に流されるあなたの将来が、見えるようです。自律した生き方ができないと、あなた自身も辛くなるでしょう。

 提案ですが、本を読む習慣をつけてみてはいかがでしょう。ビジネス本でもいいですが、それに限らず哲学、歴史、小説でも構いません。ただし、批判的に読むことをお勧めします。作者や登場人物の意見に触れる度「これは良い/悪い。なぜなら……」と考えながら読んで下さい。世の中には色々な意見を持つ人がいて、正しいものなんてないのだということを知った上で、「自分ならどうするだろう」と自分に問いながら自己を形成して頂ければと思います。

 あなたは難関資格を持っています。話をしていても、頭の良い人だといつも感心しています。しかし、その資格と頭の良さを活かさないのは勿体ないです。自分の人生観、職業観を作り上げ、揺るぎのない自信を持って、会議に臨んで頂ければと願っています。

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