見出し画像

水深800メートルのシューベルト|第465話

時が止まったように沈黙が流れると、彼女は大きく息を吸い、元の笑顔に戻して言った。
「何でもないの。映画が始まるよ、行きましょう」
「え、どんな映画観るの?」


 彼女は、答えず僕の手を引いて、先へ先へと歩いて行ったので、それ以上彼女のママについて聞けなくなってしまった。母親思いのいい子だという風に言ったお爺さんの言葉と、彼女の表情が合わず混乱したが、彼女はそこに触れて欲しくないと思っているような気がして、僕は彼女の手に引かれるがままにしていた。

     第464話へ戻る 第466話へつづく

いいなと思ったら応援しよう!