水深800メートルのシューベルト|第956話
救急車で運ばれ、病院で悪態をつき、僅かに体力を取り戻したら、無理やり変えることを望み、その通りにした。パパの頭の中には酒と暴力しかなかったのだろうか。
「状況によるが、私が緩和ケアで看取った肺がん患者は、胸から水を抜くチューブを繋いだまま、鎮静(セデーション)をかけられて、夢心地のような笑顔で亡くなっていったよ。その顔は、人生で本当に大切とされる事を全て失くして、死を受けいれているようだった。誰と結婚すべきかだったかなんてのはわからんし、わかりかける頃には、遅いのさ。私たちは、好むと好まざるとに関わらず、投げ出された状況で、与えられたものだけを受け取って生きて行くしかないんだ。道は多方面に分岐しているように見えても、一本しかなかったりするのかもしれんな」(と、ゲイルさんは言った。)