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水深800メートルのシューベルト|第529話
「そ、そこの庭に埋めるのはどう?」
僕は、近くに捨てるしかないと思ったが、メリンダは即座に首を振った。
「無理よ、野良犬が掘り返すかもしれないし、何よりあいつが近くで埋まっているって考えながらここで生活なんかできないわ。それだった、ねえ、逃げましょう、遠くへ。……、なんて言っても無理よね。ごめんなさい、アシェル」
メリンダは申し訳なさそうな顔をした。
「ねえ、どうして僕の銃を使ったの?」
僕が、訊ねると、メリンダは一瞬、氷のような表情になった。
「君に、濡れ衣を着せようと思ったの。君を呼び出して、君の指紋がついた銃を置いて逃げればいいと思ったの」
自暴自棄になったような言葉の響きを聞いているうちに、再会した時の手のぬくもり、映画を見に行った時の微笑み、このアパートメントの彼女の優しい口元とキスされた時の伝わってくる痛み、それらから成り立つ彼女の像が崩れていくような気がした。