「僕が仕事を始めたら、君は……その……家を出られるかな?」
顔の中に火がともったように熱くなるのを感じた。それと同時に、後悔もした。僕は、その発言は無責任で軽はずみだったのだと気づいたからだ。彼女の恋人でもないし、その覚悟もない僕が、こんなことを口にするなんて、彼女はきっと噴き出して笑うか、怒るに決まっている。その発言を取り消そうと「ごめん」と慌てて言った。
彼女は少しの間、黙っていた。その顔には予想したどちらの感情も見せなかった。少なくとも、僕の話を受け止めることだけはしてくれたのだと思った。
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