水深800メートルのシューベルト|第642話
すると、ママの表情はやわらぎ、目は嬉しそうに輝いていた。
「まあ、アシェル、あなたは立派になって。だったらママはあなたを引き取らなくてもいいのよね。ねえ、オリビアさんの預金はどれくらいあるの?」
「それは……」言いかけると、ラスウェルさんは僕の頭に触れてきた。
「高校卒業までは生活できるでしょう。それに、彼はパートタイムで働くつもりなので、金銭面でスミスさんにご迷惑をかけることはないでしょう」
ママはぐずりだした赤ちゃんを揺らしてあやしながら尋ねた。
「では、一緒に暮らさなくても、仕送りもしなくてもいいんですね?」
「ええ、ただ名義上はあなたが養育しているということにしてもらえますか? 後はこちらで手続きしますので。署名を」
彼は、書類をクリップボードに挟み、ペンと一緒に差し出した。