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水深800メートルのシューベルト|第349話

 彼は、海軍の勤務が国へ貢献できる崇高な仕事だと説明していた時とは違う、嫌悪に満ちた顔をしていた。しかし、目の前にいるのが、入隊するかもしれない人間だということを思い出したのか、はっとして言い添えた。


「艦船の仕事……、やりがいはあるよ。でも、俺はもう若くはないし、国には十分に尽くしてきたからいいんだ」
「じゃあ、ナージフさんは自分の代わりに、船に乗る人を探しているの?」


 僕は、ちょっぴり腹を立てた。戦艦で軍務につく方が、陸地で誰かを勧誘する勤務より過酷な事は僕だって想像がつく。それを知っていて他の人を危険に晒すなんて。でも、誰かが戦場近くでミサイルのボタンを押したり、空襲される船で敵の弾が外れるように祈ったりしなくちゃならなんだ。そう思うと、やりきれない気持ちで一杯になった。

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