水深８００メートルのシューベルト｜第４１話
「あの酔っ払い……、叩かれた方がまだマシだったよ。クソッ」
メリンダと名乗る女の子は吐き捨てるように言った。
僕は、ママがパパに昔叩かれた時に、水で痛む所を冷やしていたのを思い出した。テーブルの向かいの冷蔵庫の隣には水道があった。山積みになった汚れた皿の隙間からスポンジを取り出す。それに生ぬるい水を含ませると、彼女の目の下に軽く当てた。
「痛いんだよ、触るな！ 余計なことすんじゃないよ！」
スポンジは手で強く払いのけられ、床に転がると小さな水たまりを作った。僕は、弱々しく見えた子が、予想もしない強い声を発したことにびっくりして、目をギュッとつむった。
殴られることに備えて、顔全体に力を入れた。