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水深800メートルのシューベルト|第185話
この日もオリビアさんは食事を済ませると、長いソファの上に横になっていた。
「お婆ちゃん、ベッドに行かないの?」
僕は夜中ずっと見ていたテレビの音に飽き飽きしていたので、それを消してソファの端に座った。
「この歳になると、ここで寝る方が楽なのよ。ベッドだと眠り過ぎてしまうからね。今夜も仕事があるし」
「明日帰ってくるときには僕はいないんだね」
お婆ちゃんは、誰もいない家で寂しくないのだろうかと疑問が湧いてきた。
「坊や、覚えておいで。歳をとるとね、みんな一人ぼっちになってしまうもんだよ。それは仕方のないことなの。寂しくなんかないんだよ、どのみち死ぬときは一人だしね。サイモンや坊やがここに遊びに来てくれて楽しかったっていう思い出や、坊やがいつか遊びに来てくれるかもしれないという楽しみがあれば、それだけで充分なの。それにね、私たちみんなには神様がついておられるのよ」