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水深800メートルのシューベルト|第773話
「ご、ごめん、フェルマン。大丈夫か?」
声をかけると、彼はうんざりしたように言った。
「ああ、だが、金輪際アシェルの下にいるのはご免だからな。あいつは……ダカーリはどうなった? 早くバンドを解いてやらないと……」
落とされた男の方に目を向けた。ダカーリの目は何か起きたのか理解していないようで、宙をさまよっていた。僕の目を見た時に、ようやく焦点が合うと、瞳孔が怒りでみるみる膨れ上がっていた。それに気づいて、バンドを外す手が反射的に止まった。すると、彼は「早く外せ! この野郎」と叫びながら、自分でも縛っているベルトの隙間から手を抜き出して、何枚ものベルトを強引に外しにかかっていた。