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水深800メートルのシューベルト|第496話
メリンダが、家に入ってしまってから階段を降り始めたが、自分が口にしたこと、彼女の話しぶりや痛々しい姿を思い起こすと、胸の中を掻きむしりたくなるような気分になった。あの時、何を言えば良かったのかを考えてみたが、何も浮かばない。
いつの間には階段が終わって、更に降りようとした足が地面に跳ね返されて驚いた。来た道を戻る前に、ちょっと立ち止まって振り返り、建物の中から怒声が聞こえやしないかと、心配になりながら耳を澄ませたが、何も聞こえなかった。それで、解放された気分とそう思う自分を情けないと思う気分に挟まれながら、草を踏み締めると、背中の中の荷物が動く音が聞こえ、ああ、銃が必要な危険な所に来ていたのだということを思い出した。