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水深800メートルのシューベルト|第430話

相手のリーダーは呆れたように言った。
「ここでおっぱじめたら、大人も来るぞ。やめておくか。『雪山』って店なら、この通りの先だ。店番の爺さんなら、あそこに立っている女を知っていると思うぜ」


 彼の後ろから、ひそひそ話している声が聞こえてきた。
「あいつじゃねえのか? この前、銃撃事件起こした奴は……」
 白髪の男も、後ろにいる取り巻きたたちも、僕の震える右手を凝視していた。僕は怖くなったので、手を動かさずにメイソンの指示を待つことにした。


「おい、話はついたから、その物騒な物を抜くんじゃねえ」
 メイソンの言葉で、場の緊張した空気が溶けていくのが分かった。相手のリーダーは僕らが入って来たガラス扉の方を顎でしゃくり「通りを左に行け」と言った。

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