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水深800メートルのシューベルト|第1077話
「お前、睡眠導入剤少し残ってねえか? 俺、トイレに行ったらもう一度寝るからよ、分けてくれよ。それで今のを許してやる」
「嫌だよ。それに全部飲んでしまったよ。自分でゲイル先生の所へ行けばいいだろう?」
僕はきっぱりと断ることにした。処方薬は人に渡すなとお婆ちゃんに言われたことがあるし、それにあの薬は多めに飲んだせいか、ほとんど残っていなかった。彼は眉を吊り上げて、まるで数学の宿題を課せられて映してくれと頼む生徒の様に笑った。
「嘘つくなよ。昨日も飲んでいたじゃねえか。一錠や二錠あるだろう? これまで俺がお前を指導してやったのを忘れたのか? それに、俺、あの先生苦手なんだよ。いつもしかめ面してさ。大した仕事もしてねえくせに、妙に偉そうでさ。ここで病気になる奴なんて滅多になくて暇なくせに。ここに医者は必要なのか? 居ても居なくても変わらない存在のくせにさ?」