恋とシュレッダー
恋心をシュレッダーにかけた
ガ―ッと音を立て
恋はこっぱみじんに砕かれた
好きな人が残したメモ代わりの名刺。
長らく片思いをしていた私は、その名刺を後生大事に手帳に挟んでいた。折りに触れては取り出し眺め、その思いを募らせていたのだ。
その人はよくわからない人だった。よく二人で飲みに行った。映画を見ることもあった。だけど、きっと私の片思いだということはわかっていた。嫌われてはいないけれど、特別好きとも思われていない。よくわからない人だけど、それだけは私にもわかっていた。
そんな関係をしばらく続けて、もやもやした私は賭けに出た。二人の関係性を変えようと思ったのだ。何がきっかけだったか、猛然と、言うしかない!と決意した。少しだけ、勝算があるかもしれないと感じ始めた頃だった。私の話を聞いて、実際、彼は少し悩んだ。そして、考えるから時間がほしいといった。
返事を待っている間、私に少し長めの出張が決まった。
「戻ってきたら返事をする、前向きに考えてるから」
その言葉を聞いて、本当に驚いた。予想もしなかった答えだった。少し浮ついた気持ちで、出張中もたまに連絡をとっていた。
一週間の出張を終え、戻ってきても会おうという話はなかった。あ、これはダメだなと私は悟った。単純接触の機会が減って、冷静になってしまったのか。それともこの短い間に好きなひとができたのか。
しばらく経って、やっと二人で会うことになった。一次会を終え、彼の希望で二次会へ。終電の時間を過ぎても肝心の話は出ない。2時になろうかという頃、やっと彼は語ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って! トイレだけ行かせてください」
個室の中で、はーこれから振られるんだなーと気持ちを落ち着ける。こんなにじらさないで早くとどめをさしてくれればよかったのに……なんて考えながら席へと戻り、いよいよ本番。
この何か月かの二人で過ごした日々が楽しかったこと。話していてもおもしろい、一緒にいて楽しい。でも結論として付き合うことはできない。よかったらこれからも飲みに行ったりしよう。そんな話を彼はした。
正直言って私はなんじゃそりゃ!?って思った。とてもじゃないけどしばらくは一緒に飲みになんていけません!と彼に冗談まじりに言い返したりして。お互いにありがとうと言い合って、その日は帰路についた。
それから数日は思い出したら悲しくなったりしたけれど。日々を過ごしていくうちに、その傷はあっという間にかさぶたになった。
何か月も経ったあと、手帳のポケットからあの名刺がすべり落ちた。
もう忘れはじめていた淡い気持ち。
この名刺のメモをもらってうれしかった瞬間。
それを大事にしていた自分のこと。
すべてがいとおしく懐かしかった。
ああ、今なんだな。
目の前にあったシュレッダー。
ガーッと音を立て名刺は飲み込まれていった。
そのとき、やっと恋が終わった。