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【岩の原葡萄園 見学】ブドウという名のバトン。

こんにちは!明治大学農学部生命科学科3年の小林瑞季です。
明治大学かわさきワインプロジェクトの広報担当です。
 
これまで、初年度の活動の報告をしてきましたが、2年目である2024年度の明治大学かわさきワインプロジェクトの活動報告を再開します!


2024年9月3日。
3年生4名と岩崎泰永教授で、新潟県上越市で創立134年の歴史をもつ、岩の原葡萄園を見学させていただきました。
 
辺り一面、田んぼが広がるこの地に、突如現れる葡萄畑。
創業者・川上善兵衛は、なぜこの場所でワイン造りを始めたのか。
彼の熱き志と、それを現代に受け継ぐ職人達の姿に、きっと心を奪われるでしょう。

岩の原葡萄園と川上善兵衛について

今回、私達を案内してくださったのは、本葡萄園の栽培技師長である和田弦己さん。

栽培技師長・和田弦己さん

実は去年の10月に、明治大学が所有する黒川農場で講義をしていただきました。その時の記事も貼っておきます。

そんな和田さんに、まず川上善兵衛についてご説明いただきました。

和田さんによる講義

頸城平野の大地主の家庭に生まれた善兵衛。当時、豪雪や洪水の影響で米作りに悩まされる農民の姿を目の当たりにし、彼らを救う方法はないかと考えるようになります。 

そんなある日、明治初期の政治家・勝海舟に葡萄酒を振舞われたことで、ブドウと出会います。荒れた土地でも栽培可能なブドウ。善兵衛は、そんなブドウを使ったワイン造りが、農地には利用できない荒地を活用した第二の産業として、農民の支えになるのではないかと考えます。 

その後、家族の反対を押し切って自宅の大庭園を切り拓き、1890年に岩の原葡萄園を開園します。

川上善兵衛の銅像

「農民救済・国利民福・殖産興業」

様々な壁にぶつかりながらも、常に利他的でチャレンジを恐れない彼は、この理念を掲げながら、生涯にわたって1万を超える品種交雑を行い、現在OIVに登録されている日本固有品種の1つである「マスカット・ベーリーA」をはじめとした、多くの優良品種を生み出し、日本のワインブドウの父として現代に名を残しています。

川上善兵衛の人生についてもっと知りたい方は、ぜひ以下の本も読んでみてください。

歴史について学んだ後は、少し専門的なお話に移りました。栽培師という目線で、岩の原葡萄園の気候や土地に着目し、それらがどのようにワインの風味に影響を与えているのか。農学部の学生として、興味をかき立てられる内容でした。
 
印象的だったのは、葡萄園の土壌に関するお話。地面を掘ってみると、大きな岩がゴロゴロ転がっています。興味深いことに、この岩はなんと飛騨山から川を下って流れてきた礫岩だと考えられているとのこと。さらに、その特徴的な土壌は、善兵衛の自宅周辺のみに広がっているとのこと。そんな偶然の積み重ねが、岩の原葡萄園の地をつくったと考えると、驚きとともに感慨深い気持ちになりました。

次は、醸造所に潜入

葡萄園への理解を深めた後は、醸造責任者の上野翔さんに、醸造所を案内していただきました。

醸造責任者・上野翔さん

醸造所に入った途端、アルコールの香りがふわっと鼻を抜けます。少し進むと、目の前には大きな醸造タンクがいくつも現れ、見たことがない規模感に胸が躍ります。

醸造タンク
タンクには数えきれないほどのブドウが。愛おしくなりました。

発酵の状態を確認しながら、少しずつ手を加え、味や香りの方向性を決める。醸造家の一手間が、ワインの出来を変える。まさしく職人技だと思いました。
 
近年、科学的根拠に基づいた栽培・醸造方法の確立を目指す動きが高まる中、お話を聞いていて素敵だと思ったのは、何か新しい発見があった時に、ワイナリー同士で意見交換が行われているということ。そこには「みんなでいいワインを造ろう」という思いがあるそうです。ライバルでありながらも、同じ1つの目標に向かって切磋琢磨する姿に感動しました。
 
除梗作業から瓶詰まで。様々な工程が複雑に絡み合い、相互作用することで生み出される魅力。常にブドウへの愛を忘れず、ブドウとしっかり向き合う上野さんの姿が、非常に印象的でした。

雪室を併設した貯蔵庫、6ヘクタールの葡萄畑

その後、和田さんに貯蔵庫とブドウ園を案内していただきました。

第一号石蔵

国登録有形文化財に登録されている、日本最古のワイン貯蔵庫である第一号石蔵。昔は、山から流れてくる冷気によって、ワインを貯蔵していました。

雪室

雪室を併設した第二号石蔵。豪雪地として知られる上越の雪を、醸造期の秋頃まで保存し、低温発酵のために利用しています。悩まされることが多い雪を、反対に活用する。荒地を葡萄畑にしたり、逆境はチャンスに変えられることを、善兵衛は私達に教えてくれている気がします。

その後、本葡萄園の代表的なブドウ品種である、マスカット・ベーリーA、ブラック・クイーン、ベーリー・アリカントA、レッド・ミルレンニューム、ローズ・シオターの畑をそれぞれ案内していただきました。

マスカット・ベーリーAの畑

網をくぐった先に広がる、広大な葡萄畑。
その息を飲むような美しさといったら。
奥までびっしりと連なるブドウのカーテンに圧倒され、私はしばらく言葉を失っていました。
 
さらに胸をうたれたのは、ブドウを眺める和田さんの姿。収穫を迎えたこの時期、我が子のように育てきた作物との別れを惜しむ農家さんの姿を、今まで幾度となく見てきましたが、驚くことにそのようなものは一切感じられません。

むしろ栽培師として、ブドウという1つの「作品」を完成させた達成感と誇らしさで満ち溢れていました。

ローズ・シオター

「ブドウの個性をつくるのは人」だという和田さん。そんな和田さんが手がけるブドウは、燦然と輝き、優美でありながらも、どこか渦巻く炎を感じさせます。きっとそれは、川上善兵衛と栽培師の方々の魂の継承の証なのでしょう。

最後は、楽しみにしていたテイスティング

テイスティング

見学の最後はテイスティング。川上善兵衛の大業とそこに込められた想い、職人の方々の情熱、畑で見た美しいブドウに思いを馳せながら味わうワインは、とても奥深く、心が深く満たされました。

知識を深めることで、ものの感じ方も深まっていく。
学ぶこと・体験することで生まれる魅力を、再認識しました。

あの日、ワインとなって私たちの体内に流れ込んできた彼らの魂の結晶は、今もなお燃え続けています。

最後に

和田さん、明治大学ワインプロジェクト学生4名・岩崎先生

自身の利益ではなく、人のため、国のために自ら動き続けた川上善兵衛。
その川上善兵衛の偉業と思いを受け継ぎながら、一職人として、いいものをつくりたいと、情熱を燃やす現代の職人たち。
 
熱意のある人々は、どうしてこんなにかっこいいのでしょうか。
 
生きている時代も、年齢も、性別も関係ない。
どんな時も、志をもってがむしゃらに走り続ける人々の姿には、魂を揺さぶられます。

134年もの間、ブドウという名のバトンを繋ぎ続けてきた職人達。
時を越えて人々に愛され、感動を与え続けるワイン造りには、創業者・川上善兵衛の熱き魂を継承し、より一層強く燃え上がる職人達がいるから。
心を大きく動かされた1日でした。
 
 
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
次回是非お楽しみに!

<ご参考>岩の原葡萄園公式サイト https://www.iwanohara.sgn.ne.jp


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