見出し画像

ベクトルの発散divergence

始めに

今回はベクトルの発散について解説していきます.複雑な説明が不要という方は,定義と例2だけ見ていただければ差支えないと思います.




定義

定義は以下の通りです.

発散(はっさん,divergence)とは,単位体積当たりのベクトルの湧き出し(吸い込み)を表すものである.

また,これは,演算子 $${ \bm{∇} =\left( \dfrac{∂}{∂x}, \dfrac{∂}{∂y}, \dfrac{∂}{∂z} \right) }$$ と,あるベクトル場 $${ \bm{f} =(f_x, f_y, f_z)}$$ の内積をとったものと同義です.

$${ \rm{div} \it{ \bm{f} } }$$ や $${\bm{∇・f}}$$という風に書かれます.

すなわち,数式では,以下のように定義されます.

$$
\rm{div} \it{ \bm{f} = \bm{∇・f} = \dfrac{∂f_x}{∂x} + \dfrac{∂f_y}{∂y} + \dfrac{∂f_z}{∂z} }
$$


イメージ

「divergence」という英単語が表す「発散」のように,(3次元空間において)ある点からベクトル場の「湧き出し」を示します.
ちなみに,この値が負となるとき,「湧き出し」の反対,すなわち,「吸い込み」を表します.


例1 定義の導出

<問>
あるベクトル場 $${ \bm{f} =(f_x, f_y, f_z)}$$ にある直方体 $${ ΔV= ΔxΔyΔz }$$ を考えて,「単位体積当たりのベクトルの流出量」と「演算子 $${ \bm{∇} }$$ と, $${ \bm{f} }$$ の内積」が等しくなることを証明しなさい.
ただし, $${Δx, Δy, Δz }$$ は微小量とする.

<解>
方針としては,「単位体積当たりのベクトルの流出量」を変形して,$${ \bm{∇・f} }$$ を導き出します.

ベクトル場 $${ \bm{f} =(f_x, f_y, f_z)}$$ が存在する3次元空間において,位置$${ \bm{r} = ( x, y, z) }$$ を起点とした直方体 $${ ΔV= ΔxΔyΔz }$$ を考えます.以下の図の青い直方体です.



ここで,まずx軸に垂直な2面に注目します.図ではオレンジ色に塗られている2面です.




x軸に垂直であるということは,x成分 $${ f_x }$$ だけ考えれば良いという訳です.
また,x軸の変化だけを考えたいので,yとz座標の変化は無視します.

便宜上,位置 $${ ( x, y, z) }$$ に依存するということを示すため,$${ f_x( x, y, z) }$$ と表現します.
すなわち,奥の面のある点に入る流れは,$${ f_x ( x, y, z) }$$ であり,
手前の面のある点から出る流れは, $${ f_x( x+Δx, y, z) }$$ となります.


これらに面積 $${ ΔyΔz }$$ をかければ面全体の流れが求まります.
したがって,2面の流れの差を取ると,

$${ \bigg( f_x( x+Δx, y, z) - f_x( x, y, z) \bigg) × ΔyΔz }$$

$${ {\tiny ↓ Δxを分母・分子に生み出す} }$$

$${ = \dfrac{ f_x( x+Δx, y, z) - f_x( x, y, z) }{Δx} × ΔxΔyΔz }$$

$${ {\tiny ↓微分の定義から,\dfrac{ f_x( x+Δx, y, z) - f_x( x, y, z) }{Δx} = \dfrac{∂f_x}{∂x} } }$$

$${ = \dfrac{∂f_x}{∂x} × ΔxΔyΔz \\ }$$

$${ {\tiny ↓ΔV= ΔxΔyΔz より } }$$

$${ = \dfrac{∂f_x}{∂x} × ΔV }$$

これを,y軸,z軸に垂直な面について同様に考えると,$${ \dfrac{∂f_y}{∂y} ΔV }$$ , $${ \dfrac{∂f_y}{∂y} ΔV }$$ となり,これらを合算すると,流出量の総和が求められます.よって,

$$
 \dfrac{∂f_x}{∂x} ΔV + \dfrac{∂f_y}{∂y} ΔV +\dfrac{∂f_z}{∂z} ΔV \\
 \\
= \bigg( \dfrac{∂f_x}{∂x} + \dfrac{∂f_y}{∂y} +\dfrac{∂f_z}{∂z} \bigg)ΔV \\
 \\
$$

単位体積当たりの流出量を求めたいから,単位体積 $${ ΔV }$$ で除すと,

$$
\rm{ \left( 単位体積の流出量 \right) } =  \it{ \dfrac{∂f_x}{∂x} + \dfrac{∂f_y}{∂y} +\dfrac{∂f_z}{∂z} }
$$

これは,

$$
\bm{∇・f} = \dfrac{∂f_x}{∂x} + \dfrac{∂f_y}{∂y} + \dfrac{∂f_z}{∂z}
$$

と等しくなります.以上より,題意を示せました.


例2 幾何学的な問題

<問>
以下に示すベクトル場$${\bm{f} (\bm{r}) }$$の発散を求めなさい.
ただし,位置ベクトル $${ \bm{r} = \left( x,y,z \right)}$$とします.

(1) $${\bm{f} \left( \bm{r}\right) = a \bm{r} }$$ ($${ a }$$は定数)
(2) $${\bm{f} \left( \bm{r}\right) = \bm{ c } }$$(定数ベクトル $${ \bm{c} = ( c_x, c_y, c_z) }$$ )
(3) $${\bm{f} \left( \bm{r}\right) = ( -ωy, ωx, 0) }$$(ωは定数である等速円運動)


<解>
成分表示して定義通りに計算します.

(1) $${\bm{∇・f} = \dfrac{∂(ax)}{∂x}  + \dfrac{∂(ay)}{∂y} + \dfrac{∂(az)}{∂z} = a + a + a =3a }$$

(2) $${\bm{∇・f} = \dfrac{∂(c_x)}{∂x}  + \dfrac{∂(c_y)}{∂y} + \dfrac{∂(c_z)}{∂z} = 0 + 0 + 0 =0 }$$

(3) $${\bm{∇・f} = \dfrac{∂(-ωy)}{∂x}  + \dfrac{∂(ωx)}{∂y} + \dfrac{∂(0)}{∂z} = 0 + 0 + 0 =0 }$$


例3 具体的な問題

3次元空間に存在する川を考えてみます.
川の流速ベクトルは$${ \bm{v}( x, y, z ) =( 2x, 3y, -z)  \rm{[m/s]} }$$,
任意の点での密度ρは$${ ρ( x, y, z ) = 1000  \rm{[kg/m^3]} }$$
とします.
ここから,任意の点における質量流量ベクトル $${ \bm{M} }$$は,$${ \bm{M} = ρ \bm{v} \rm{[kg/(m^2・s)]} }$$と与えられます.

このとき,
(1) 任意の点における質量流量ベクトルの発散を求めなさい.
(2) ある位置$${ \bm{r}= ( 1, 1, 1) }$$ における質量流量の発散を求めなさい.
(3) (2)の位置において水が湧き出しているか,吸い込まれているか求めなさい.

<解>
(1) 定義から,

$$
\bm{∇・M} = \bm{∇・(ρ\bm{v})}
 \\
 \\
= \dfrac{∂(2000x)}{∂x}  + \dfrac{∂(3000y)}{∂y} + \dfrac{∂(-1000z)}{∂z}
 \\
 \\
= 2000 + 3000 - 1000 = 4000 \rm{ [kg/(m^3・s)] }
$$

(2) (1)に数値を代入して,$${ 4000 \rm{ [kg/(m^3・s)] } }$$

(3) (2)より,発散が正の値であるから,水が湧き出していると考えられる.
※「湧き出し」と聞くと,そこから質量保存の法則を無視して水が湧き出しているようにも感じ取れますが,実際は入出量の総和なので,その量だけ水が流れているとイメージするのが正しいです.


終わりに

ここまで長々と書いていきましたが…
実際の意味を考えるよりもイメージを掴んだ後は計算のツールとしてどんどん演習を重ねていく方が良いと思います.
今回は以上となります.


参考

大学物理のフットノート ベクトルの発散

いいなと思ったら応援しよう!