大量の残飯が出るパーティー料理のあり方を変える。食時で人の心を動かすCRAZY KITCHENの挑戦。
2017年3月ーー。「Oisix」と「大地を守る会」の経営統合が前年に発表され、新会社の誕生を祝うBirthday Partyで目にした光景に、みな目を丸くしました。
それぞれの会社で扱っている食材が組み合わさった料理が、見たことのない装いで並んでいたのです。新しい挑戦が始まる高揚感に会場が包まれました。
手がけたのは、CRAZY KITCHEN(クレイジーキッチン)。
料理だけではなく、食事を楽しむ空間、時間、コミュニケーションをデザインするオーダーメイドケータリングを展開する同社は、2015年11月に創業。2018年8月にOisix ra daichiからの出資を受け子会社となり、現在は新たなステージに進む真っ最中だと代表の土屋杏理さんは言います。
その先に見据えるのは、料理を通じて特別な時間を届けることに止まらず、「食べられる側の命の大切さ」に気づいてもらう瞬間をつくること。
当たり前のように大量の残飯が出てしまうパーティー料理の現状を変えたいというCRAZY KITCHENの挑戦について、土屋さんに話を聞きました。
感情が芽生える空間を、食を通じて演出する
ーー はじめにCRAZY KITCHENがコンセプトとして掲げている「食時(しょくじ)をデザインする。」の言葉の意味から、お話しいただけますか?
土屋さん:私たちが手がけるオーダーメイドケータリングは、ただお腹を満たすだけの食事を提供するのではなく、料理や演出を通じて、心に残る体験を届けることを大切にしています。
土屋 杏理さん。新卒にて広告会社に入社。7年間の勤務後、自身のウェディングをきっかけに同社を退職、株式会社CRAZYへ創業メンバーとして参画する。CRAZY WEDDINGのトッププロデューサーとして活躍後、自身の動物や食べ物に対する価値観から、「食に関わるすべての命が輝く仕事をしよう」と、2015年にCRAZY KITCHENを立ち上げ、代表を務める。
土屋さん:創立記念、オフィス移転、ブランドのお披露目など、特別な日を彩るお手伝いをしていますが、どのイベントにも必ず主催者の想いがあるはずなんですよね。「その会社で働く喜びを改めて感じられる場にしたい」「ブランドの世界観を肌で感じられる場にしたい」とか。私たちは、その想いを受け止めて、食を通じて体現することを目指します。
だから、ケータリングの相談をいただく際に、普通はメニューの要望を聞くと思うんですけど、私たちは「どういう場にしたいのか?」と想いを聞くことから始めるんです。
ーー コミュニケーションパートナーのような存在でありたいと。
土屋さん:そうですね。手がけているのは食ですが、本質的には感情をつくる仕事だと捉えています。料理が美味しかったと言ってもらえるのも嬉しいですが、主催者が叶えたかった想いを実現できた瞬間が最も喜びを感じます。
「食べられる側の命」を大切にすることが、持続可能性に繋がる
ーー オーダーメイドでお客様の課題に合わせてたケータリングを提供してきたCRAZY KITCHENですが、新しく「サステナブル コレクション」というパッケージのケータリングをはじめましたよね。この意図は何なんでしょうか?
▲「知らなかった世界を知り、食べることで世界とつながる」の想いを詰め込んだCRAZY KITCHENのサステナブル コレクション。真珠養殖の副産物として養殖されているヒオウギ貝、本来はキャビアを採った後に廃棄されてしまうサメなど、通常では出会えない、めずらしい食材を味わっていただくプラン。
土屋さん:サステナブル コレクションは、大きな挑戦のひとつで、CRAZY KITCHENが一番伝えたいことを形にしたプランです。
私たちにとって、お客様の願いをケータリングを通じて体現することが最優先で、これからもその姿勢は変わりません。ですが、そもそも私たちがCRAZY KITCHENを創業した理由って、「食に関わるすべての命が輝くように」という想いからだったんです。
ーー 食に関わる全ての命ですか…?
土屋さん:はい。私たちは生きていくために当たり前のように様々な食材を食べますが、その裏には「食べられる側の命」があることを忘れてはいけないと感じています。
現在、大量の食料廃棄による環境汚染や経済問題が注目を浴びていますが、私たちは動物や植物の命をいただいているわけですよね。彼らにも命はあって、その命を大切にしたいと純粋に思うことが、こういった問題を解決する一歩になると思うんですよ。例えば、牛や鶏が飼育から解体されるまでの流れを知るだけで、食材を大切に扱おうとか、きちんと味わって食べようという気持ちが芽生えるじゃないですか。
でも、押し付けるように訴えても、なかなか難しい。どうすれば、普段意識することのない世界に興味を持ってもらえるかを考えて生まれたのが、このサステナブル コレクションです。定番のパーティー料理ではなく、自分たちの知らなかった世界に触れてみたいという方々に味わっていただき、少しでも食べられる側の命の存在について感じてもらえたら嬉しいです。
大量の残飯が出るパーティー料理のあり方を変える
ーー CRAZY KITCHENのWebサイトのビジョンに「Attention to a life 命の循環」と書かれていますが、その意味がわかったような気がしました。
土屋さん:はい。私たちは「食べられる側」の命の終わりを大切にし、その命が新しい命に繋がる循環をつくっていきたいんです。例えば、調理の過程で発生した生ゴミは、コンポスト機を使って堆肥に変え、提携農家さんに活用いただいたり、できることはわずかなことですが、こうした命の循環にも取り組んでいます。
また、パーティー料理って、すごく大量に残飯が出るんですよ…。すごくもったいないと感じていて、適切な量を作り、すべて食べきっていただくことを目指して準備しますが、残ってしまったときに備えて、任意でお持ち帰りいただけるドギーバッグも用意します。
そのほかには、料理を取り巻くものたちへの取り組みも始めています。パーティーで大量に発生する割り箸やおしぼり、プラスチックコップのゴミを廃止し、自然に戻る素材のお箸を採用したり、使い捨てのおしぼりはオリジナルのナフキンに変えました。
ーー 目に見えないところまで、こだわり抜いてやっているんですね。
土屋さん:その分、手間暇はかかりますけどね。ただ、食べられる側の命をはじめ、関わった生産者の方、届けてくれた方、料理人の想いを考えると、大切に扱わないといけないと思うんです。
大量に作って、大量の残飯が出るパーティー料理のあり方を変えていく。これが、CRAZY KITCHENで果たしたいことのひとつですね。
新しいフェーズへと昇り始めたCRAZY KITCHEN
ーー 昨年Oisix ra daichiからの出資を受け子会社となり、今年からサステナブル コレクションを立ち上げたりと、CRAZY KITCHENは着実に新しい階段を昇っているように見えますが、土屋さんは会社の成長をどう捉えていますか?
土屋さん:そうですね。CRAZY KITCHENを創業してから約5年が経ちますが、創業当初からやりたかったことに、やっと取り組み始めることができたという感覚です。
この5年間、一緒にやってきたスタッフやパートナーの皆さんのおかげで、斬新な食のクリエイティブを提供するオーダメイドのケータリング会社と言えばCRAZY KITCHENというブランドは、築いてこれたのではないかと思うんですね。
創業して実績も何もない時に、「食べられる側の命を大切にしましょう!」と叫んでも、話を聞いてもらうのは難しい。ですが、現在は私たちの姿勢に共感してくれて、耳を傾けてくれるお客様が存在してくれています。そういった方々に想いを伝えて、お客様の願いを叶えると同時に私たちの想いも実現する活動を増やせていけたらと考えています。
ーー この5年間のおかげで、次の道が切り開けた状態なんですね。
土屋さん:はい。宏平さん(Oisix ra daichi社長の髙島 宏平)からは、定期的にアドバイスをもらいつつも、私たちの意思をすごく尊重してくれて、ある種自由にやらせてくれている。ありがたい環境ですよね。
恩返しは成果だと思っているので、必ず結果で返したいと思っています。「Oisix ra daichiのグループ会社の中に、CRAZY KITCHENがあってよかった」とグループの皆さんが感じてもらえるような存在になっていきたいです。
希望を多くの人を届け、心の健康を担っていく
ーー 最後に、これからCRAZY KITCHENは、どういった存在になりたいと考えているかを聞かせてください。
土屋さん:私たちは、料理とは「希望」で、単にお腹を満たすだけではなく、心を満たすものだと捉えています。そんな料理の価値を多くの人に届けていきたいです。
▲今年行われたCRAZY KITCHENのオフィス移転パーティーでの一枚
土屋さん:野菜にしても、肉や魚にしても、栄養を摂るという意味では、簡単に調理するだけで事足りるわけじゃないですか。それを、わざわざ煮たり、焼いたり、細かく切ったり、出汁をとったりするのは、健康に生きる以上の価値を感じているからですよね。
温かさにホッとしたり、作り手の愛情を感じたり、明日もまた頑張ろうと思えるような精神的な希望を、人間は料理に見出していると思うんです。だから、私たちはケータリングを通じて、希望を多くの人を届けていきたいし、心の健康を担っていく存在になりたいです。
ゆくゆくは病院食のプロデュースなども手がけてみたいですね。栄養管理されて、個々の患者さんに適した食事はもちろん必要ですが、体の栄養だけでなく、心の栄養も育めるような食事を届ける。そんなチャレンジも、CRAZY KITCHENなら実現できるはずです。
お腹だけではなく、心を満たすーー。そんな食時を、これらもデザインし続けます。
<文章:井手桂司>
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