30歳からの再始動。 元音楽家のマーケティング本部長が語る「これができれば年齢なんて関係ない!」
この夏、『クレヨンしんちゃん』とコラボしたOisixの交通広告をご存知でしょうか?
「かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう。」という言葉を添えて、家事に育児に忙しいお母さんへ向けたメッセージが書かれた広告は、大きな反響を呼びました。
▲ 2019年8月26日〜9月1日にかけての1週間、春日部駅に掲載されました。
▲ ポスターに書かれたメッセージ。
担当したのは、Oisix ra daichiの統合マーケティング本部・本部長の井上政人さん。
その井上さんが、よく口にする言葉は「やっぱ、俺、天才やわ」。一見自信過剰と思えるセリフですが、Oisixの新規のお客様を増やすチームで成果をあげたり、広告賞を受賞するなど、その言葉に負けない実績を積み上げてきました。
ですが、井上さんがマーケティングの世界に足を踏み入れたのは、30歳を超えてから。それまでビジネス書は一冊も読んだことはなく、音楽活動に没頭しながら、並行して植木職人や木こりとして働いていた異色の経歴の持ち主です。
現在38歳の井上さんは、30歳でゼロから始動し、どうやって数々の結果を生むことができたのか? 話を聞くと、「やっぱ、俺、天才やわ」の言葉に込められた深い意味がわかってきました。
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レゲエの世界から、マーケティングの世界へ
ーー 井上さんは20代を音楽活動に捧げて、30歳から企業のマーケターという珍しい経歴ですよね。なぜ、キャリアチェンジをしようと思ったんですか?
井上政人さん。大阪府出身。高校卒業後、音楽活動と並行して植木職人、木こり、デザイナー、Eコマースディレクターとして活躍。その後、Oisixに入社。OisixではEC事業本部PR室を経て、統合マーケティング本部長。
井上さん:ミュージシャンの道を諦めたことが大きかったですね。
高校でレゲエにハマり、27歳まで音楽活動に邁進してたんですよ。インディーズでCD4枚出したり、大阪のZeppで歌わせてもらったり、ジャマイカへ修行に行ったりもして、それなりに頑張ってるでしょ(笑)。 でも、ある時に音楽の道に限界を感じてしまって ……。
そこで、絵を描くことが昔から好きだったので、次はデザイナーを目指そうと思いました。次第にWebデザインをやり、ECの世界に入り、マーケティングに出会ったんです。
それまで、自分の音楽を聞いてもらうことが人生最大の喜びだったんですよ。でも、サービスをお客さんに受け取ってもらうという意味で、マーケティングも同じだと気づきました。アイデア次第で、世の中を沸かせられる。どんどんマーケティングにハマりましたね。
ーー でも、レゲエのミュージシャンから会社員って、かなり大きな変化ですよね ……?
井上さん:そりゃ、めちゃくちゃ大変でしたよ! そもそも、最終学歴が高卒でしょ。しかも前職がレゲエのミュージシャンという得体のしれない人間。どこも雇ってくれません。
なので、最初は知り合いのデザイン会社の手伝いをしてました。ほぼ無給です(笑)。何とか実績をつくって、家具をネットで販売している会社に入社したのが30歳の時。そこで、Eコマースディレクターとして、マーケティングをはじめて経験させてもらいました。
だから、マーケティングの勉強を始めたのは30歳を超えてから。それまで一冊もビジネス本を読んだことはなかったです(笑)。
熱量の可視化でチャンスをつかめ!
ーー 30歳からスタートして、現在に至るまでに、数々の結果を残しているのは単純にスゴいと感じるんですが、その秘訣は何なんですか?
井上さん:スゴいかどうかはわかりませんが、やっぱり打席に多く立たせてもらうことですね。打席が多ければ多いほど、ヒットを打てる可能性は高まるわけですから。
そして、チャンスは、やりたいと強く願っている人のところに必ず降ってきます。なので、アピールはめっちゃ重要ですよ。
例えば、ある分野の仕事をしたいとするじゃないですか。まずは、その分野の知見が学べる本を沢山読んだ方がいい。でも、そこで終わっちゃダメなんです。読んだ本を会社のデスクに平積みにして読書量がわかるようにする。すると、どれだけ熱量を持っているかが、周りに伝わりますよね。
ーー なるほど。井上さんも実際にやられていたんですか?
井上さん:当然ですよ! 僕なんて、出社する時に本を読みながらオフィスに入ったりと、芸の細かいアピールもしてました(笑)。
もちろん、本で得た知識のアウトプットがセットでないと意味ないですけど、こういうアピールって意外と大事です。僕も本部長の立場になって感じますけど、誰かに仕事をお願いするなら、やりたくて仕方がなさそうな人を選びたいじゃないですか。
日本人は恥ずかしがり屋な気質があって、アピールが苦手な人も多いですけど、成果を残したいなら、この姿勢は重要だと思いますね。
自分を奮い立たせる言葉を口にする!
ーー アピールで思い出したんですけど、井上さんって、よく「やっぱ、俺、天才やわ」と言うじゃないですか。これも、ある種の自己アピールなんですか?
井上さん:そりゃそうですよ!たまに本気で「俺、天才かも?」と思う瞬間もありますけど、そんなの2%くらい(笑)。残りの98%は演出でもあるし、ハッタリです。
英語のことわざに「Fake it till you make it.」という言葉があって、「成功するまで、成功しているフリをしろ」って意味なんですけど、まさにこれです。
僕よりスゴいマーケティングのプロなんて沢山いますよ。でも、いつかは追いつきたいし、追い越したい。そのためには周囲はもちろん、僕自身が僕に期待することが大切だと思うんです。「やっぱ、俺、天才やわ」には、自分をいい意味で錯覚させる効果があるし、自分を奮い立たせることもできます。
ーー そんな深い意味があったんですね ……!
井上さん:単なる自信過剰な奴じゃないですよ(笑)。
僕は、基本的に何か目的があって、それを成し遂げるためにユニークなことをするのが好きなんです。ただ目立ちたいだけの奇抜さとは違うんですよ。「こうなりたい」という目標があるなら、そこに向けて自分を奮い立たせる言葉を考えて、口に出してみてください。
自ら機会をつくり、アウトプットの質を高める!
井上さん:加えて、やりたいことがあるならば、自分で機会をつくって、どんどん実行することも大事ですね。
僕の話でいうと、Oisixのオフィスが五反田にあった頃に、こんなポスターをトイレに貼りました。
井上さん:当時、トイレの水が弱くて、うまく流れない事象が結構あったんです。社員の中で共通の問題になってました。そこで、きちんと流すことを啓蒙したいと思い、勝手にポスターを作りました。
「五反田バンクシー」って書いてあるだけで、作成者は不明です。会社に来ると、謎のポスターがトイレに貼ってある。社内はザワつきましたよね(笑)。
ーー これは仕事と全く関係なく、ボランティアでやられたんですか?
井上さん:はい。当時、広告やPRの事例について勉強していて、こういう施策を自分でやってみたいと思ったんですよ。ちょうど、解決すべき課題が目の前にあったので、試しにやってみました。
ーー まさに自分で機会をつくって、実行されてますね。
井上さん:休日に自宅でポスターを作成するわけですけど、奥さんから「アンタ、何をやってるの?」とツッコマれましたよ(笑)。
他にも、Oisixでは、こんなポスターをSNS投稿用に作りました。
井上さん:これは、8月31日の「野菜の日」を祝うもので、いつもは脇役の野菜たちを主役にしました。焼き鳥の鳥と野菜の比率を逆にしたり、キャベツの添え物としてトンカツを置いてみたり。かき氷のポスターでは、大根おろしを氷の代わりに使ってます。
Oisixは美味しい野菜を届ける会社だし、何かユニークな形で野菜の価値を高めたいと思ったんですよね。直接、売上には繋がらないかもしれないけど、あえてチャレンジしました。
ーー この2つのポスターの施策って、『クレヨンしんちゃん』とコラボした交通広告にすごく似てますよね。場所と時期を選んで、クリエイティブでメッセージを届けるという点で。
井上さん:そうなんですよ。あの交通広告は、『クレヨンしんちゃん』という素晴らしい題材が使用できたり、頼れるクリエイティブパートナーがいてくれたり、夏休みというタイミングなど、様々な幸運が重なって生まれた施策です。
でも、どんなにチャンスの星が巡ってきても、これまでのプロセスがないと、あの場であのアイデアは生まれなかったと思うんですね。
絶対に誰のもとにもチャンスは訪れます。でも、そのチャンスをものにできるかは、日々の努力なんですよ。やりたいことがあるならば、会社から仕事が降りてくるのを待つのではなく、自分で機会をつくって実行する。そうすると自然とアウトプットの質が高まります。この意識が大切ですね。
ベストを尽くすな、Missionを成し遂げろ!
ーー 今回、井上さんの話を聞いて、熱量のアピールや、積極的なアウトプットの大切さを改めて痛感しました。
井上さん:是非、たくさんインプットして、いいアウトプットをしてください!
そして、アウトプットで大切なのは、明確な目的を持って実行することです。ORDism(Oisix ra daichiの行動規範)に「ベストを尽くすな、Missionを成し遂げろ」という言葉がありますが、闇雲にアウトプットしてもあまり意味がないんですよ。
面白いアイデアって、ユニークな方法で何しからのMissionを成し遂げているものだと思います。
ただ奇をてらっただけのものって、全く面白くないんですよ。Missionをどうやったら成し遂げられるかを徹底的に考え抜いて、実現のために斬新なアイデアをぶつける。そこにオリジナリティが生まれるんです。
でも、これをキッチリやれている人が意外と少ない。だから、これができれば、何歳からはじめたとしても、どこでも活躍できるんじゃないかと思います。
<文章:井手桂司>
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