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夢2

久々に会った人の家で寝て、夢を見た。


僕が階段を降りてみると、家の中はなぜか大騒ぎだった。
2階で寝ていたはずの若い青年がいないらしい。

あれ?
みんな混乱していて
彼が寝ていた場所に空いている
大きな穴に気づいていない。

僕はもう一つ階段を降りる。
当然、2階から降りたのだから1階だが
そこには身体が硬直している
──たぶん、おそらく、人間のような気がする
──何かが倒れていた。
下に落ちたのか。

怖い。僕は嫌な想像をして、
顔のあるあたりの部分をあまり見られない。

何人かの人がバタバタと
その倒れている人に向かって
駆け寄っていっている。

怖い。視界がぐらぐらと
揺れているような空気感。
そーっとそーっと顔に視線を移す。
彼の目は開いていた。
生きている。


彼の足が硬直していて
それをどうにかしようと大人が頑張っていた。
揉んだり、曲げようとしたり、触ったり。

僕が恐る恐る彼の前に膝をつくと
彼は苦しそうに上半身を起こして
すがってくる。僕の膝に倒れて、
足が処置される痛みにうめき声をあげている。

僕は彼の足の処置は彼にとって必要なことだと
なんとなくわかったし───
彼も、苦しさをどうにかやり過ごそうとしていた。

どうにかしてあげたい。
名も知らない彼だが、
僕の心は慈悲に染まっている。
考える前に彼の手を握る。

彼は僕の手をしかと、それはそれは強く握って
まるで母親がいきむ時、分娩台の手すりを掴んで余計な力を逃がすような
そんな時の強さのような、
そんな連想が浮かんだが
とにかく彼はすごい力で手を握ってきて、
顔を真っ赤にして汗をかいている。
うう、ううと絞り出すような声が漏れる。

僕も彼の汗ばんだ手を握り返しながら、
苦しいな、苦しいな。
頑張っとる、頑張っとる。
大丈夫、大丈夫。
などと繰り返す。

彼は上半身を支えきれなくなり
正座した僕の膝に顔を埋めてなおも苦しむ。
僕は彼の頭を撫でる。


夢はここで終わる

僕は彼の母のようであり、
全能の神のようでもあった
彼を受け止め抱えることが
僕の救いになっていたような
そういう気がする

目を覚ましたのは8時半だった。
朝の光が包み込む見慣れない部屋。
体を起こす。 
掠れた声で「おはよう」と言うと
近くで過ごしていた部屋の主が明瞭な──
起きてから3時間は経っているかのような──
発声で
「おはよう」と言ったのち、
ぼんやりとしている僕に
「あんたのイビキで2回起きたわ」
と投げかける。

僕は思わず笑う。
「鼻が詰まってたんかな、それとも喉かな…」
と言うと、
「お母ちゃんのちっちゃい版」
と言われる。

僕は納得して「喉かぁ」と笑い、
力なく立ち上がる。
植物の置いてある台所。光が差し込んでいる。

母性、と口の中で呟いて、
蛇口をひねる。
目を細める。
朝の光の眩しさに、まだ明順応していない。

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