春の電車内にて
後ろの席の男性たちの会話が聞こえてくる。僕はぼんやりと、写真を見返している。いい写真だなぁ。今日は桜が撮れるといい。
3つ前の駅で賑やかに乗り込んできた3人の男性たち。2人は隣同士に座れたが、1人はやむを得ず離れたところに座った。お酒の缶を開ける音がして、僕の後ろに座った2人は宴会をはじめた。賑やかに。春らしく、品のない話。僕の左前に座っている1人は携帯を構いつつ、だんまりと缶をあおっている。
会話を控えめに、というアナウンスに耳を傾けることもなく、後ろの会話は盛り上がる。2缶めを開ける音が聞こえた。窓には、柔らかな日に照らされる田園と山が流れる。左前の男性が、お酒を飲み終わって、静かにマスクをつけているのを見た。この穏やかなどうしようもなさを、春の陽気が包んでくれる。空気に中和されてまどろんで、優しい忘却を待つ。ああ春。
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