おなかで考えて

たとえばこんど
あなたがね
意地悪なことをいったとして

たとえば、そう

「君は僕にどうしてほしいの？」

なんてことをいったとしたら

私は「ずっと生きててほしいわ」
って言うって決めてるの

あなたは
「そんなことは無理だよ」
って笑うでしょうね

そうしたら私は
「じゃあ私より後に死んでほしいわ」
って言うわ

あなたはきっとそれも
「無理だよ」
なんて言うんでしょうね



それくらいしか言えないわ
私、だってそれが限界よ
してほしいことを言っても
叶えるつもりないじゃない


本当は本当は
一日中会っていたいし
私のすべてを肯定してほしい
私をずっと1番に愛してほしい
あなたにとって
それはあまりに無理なお願いなんでしょうね

頭ではわかってるの
でも納得できないの
胃が受けつけないのよ
こういうことって そう
こういうことってね
頭じゃなくてお腹で考えるの
賢い賢いあなたには
わからないでしょうけど

私はお腹で考えるタイプなのよ

…冷蔵庫にある
シフォンケーキが
食べたくなってきたわ…

………


あー美味しかった！幸せね！ 天国の天国ね
ここのケーキ屋 また行きましょうね

あら、なんだったかしらね

少なくともね
私の傷ついた心を
一緒に眺めてほしいの
私の地平とあなたの地平は違うけど
私の砂浜に足を踏み入れる努力くらいは見せてほしいわ


いいえ
きっとそれもあなたは無理っていうの
わかってるわ

あなたが私の地平さえ見たくないっていうなら
きっとそれって地獄の地獄よ

私、部屋を飛び出して
そのままご飯を食べるのをやめるわ

だから言わない 言えないのよ

あなたが思わずクスッと笑って
無理だよと言える
あまりに大きな願いだけ言うの

私のほんとのほんとの願いは
きっとすごく小さいけれど
口が裂けても言えないわ


一緒に地平を見てほしい
それだけだけど
それだけなのよ


無理だよ
じゃなければ

僕じゃなくて他の人とやりなさい
と言うんでしょうね

私、あなたと眺める景色は
きっと素晴らしいって信じてるのに
馬鹿みたいね

他の人と地平を眺めろって
その方がいいのはわかってるわ
でも頭ではわかってても
どうしようもないことがあるの

ね、日常と非日常って
そんなにくっきり分けられるものなの？
あなたは理屈やロジックを
すごく大切にするけれど

あなたが言うことは時々ヘンよ
そんなにみんな理屈で動いていないの
誰もあなたにそれを教えてくれなかったのね
もう…

私からすれば
あなたじゃなきゃ嫌
なんて言葉は
口から出るには痛すぎるのよ
口の端が切れてしまうわ

口の端のほんの少しだけ
かもしれないけど
それでも想像するだけで
痛いの 痛いのよ
原理的には言えるはずですって？
お馬鹿さんね
簡単に言えない言葉ほど大切なの

そんなに高度に象徴化された言葉で
季節や自然や地球のすべてを
そして目の前の私さえ
すべて表せると思ってるのかしら

腹が立つわ！

あのね
あなたは世界を理解する関わり方しか知らないのね
中に入って溶け込んで
一緒になって感じるっていう
関わり方もあるの


あなたは本ばかり読んでて
ちっとも人とご飯を食べないから
わからないのよ

目と脳だけ発達して
口と胃が退化してしまってるの
きっとそうなのよ

大事な人と
一緒にご飯を食べて
おいしいって言い合うの
そうしないとお腹も口も
喜び方を忘れてしまうわ 

あなた きっとね
言葉というものや
先人の残した理論や あなた自身から出る理論の
確らしさに守られて
ここまできたのね
そんなにいろんな言葉をおぼえて
あなたの世界を表現しようとしてきたのね

ほんとにほんとに
頭がいいのか
お馬鹿さんなのか
わかんないんだから