「ある町」
スズメが柵の上にとまっており、チョンチョンと両足で跳びながら餌を探している。
ここはファストフード店のテラス席である。
ふと、スズメはここでハンバーガーを食べる親子から、ちぎったパンくずをもらっているのだろうかと思う。
あー。そんなことをしていたら、ここはスズメが多く集まるようになってしまうだろう。そのうち、鳩も集まるようになって、この新しくできた店のテラス席は、あっという間に鳥たちのフンだらけになってしまうだろう。
そうなったら大体、「ハトに餌をあげないでください💦」みたいな張り紙かラミネートされたやつかなんかが張り出されて、黒を基調としたテラス席が一気にダサくなるんだろう。
どんなもんだろうかとダサいテラス席を想像していたが、そういえば、懸念は不要だった。
この町の人間は、鳥に餌をあげないことに気づいたからである。
この町の人間は鳥に餌をあげない。
ましてや、自分が買ったハンバーガーのパン部分なんてものは死んでもちぎらない。
合理的な思考が可能な、分別のつく人間だけではない。幼く未熟な子どもから暇を持て余した老人に至るまで、この町の人間はすべからく鳥に餌をあげないのだ。
テラス席の柵の向こうには、カモシカのような脚を投げ出しているショートパンツのおじいさんが横たわっているのが見える。炎天下のアスファルトに、おじいさんの白髭が映える。ショートパンツの色は黄色で、ふくらはぎまでの靴下は白に、青いラインが2本入っている。
柵の前を、しまむらのデカい袋を下げたおばさんが通り過ぎる。彼女のようにしまむらで買った服を着ている人を見ると、"しまむラー"同士は、彼らにしかわからないサインを送り合う。
店内を見渡すと、オリーブグリーンの着物にターコイズブルーのニット帽を合わせているおばあさんが見える。冷たい目をしているおばあさんは、ハンバーガーの注文をする際、カウンターへと進み出て、店員に「なんでもいいです」と言うのだ。
いつのまにか、私もこの風景に慣れてしまった。この町に慣れてしまった。
慣れてしまったのだ。