◎ランチ酒 おかわり日和/原田ひ香 おいしい人 2024年1月29日 11:22 まず、生のビールジョッキと水が運ばれてきた。どちらにもびっしりと霜がついている。ジョッキは冷たく冷やされていたようだ。お冷のコップがでかい。ジョッキと同じ大きさがある。なんというか、これだけでも、なんか嬉しい。いっぱい水が飲めるのって、それだけで歓迎されている感じがする。少し遅れて、キュウリの浅漬け物の小皿はやってくる。これは、ビールのお通しとかではなく、ランチの付け合わせのようだった。それをぽりぽり食べながら、ビールを飲んだ。第一酒 表参道 焼き鳥丼ビールを三分の一くらい空けたところで、主役の焼き鳥丼がやってきた。大きくて少し平たいどんぶり鉢。焼き鳥は串がすでに抜いてある。しかし、これはこれで食べやすそうだ。ねぎま、鶏とシシトウ、ささみわさび、レバー、小さめのつくね。肉とご飯の間には刻み海苔が敷いてある。どんぶりの底が浅いので、見た目ほどご飯は多くない。たれはしっかりとご飯を覆っており、でも、かけ過ぎではいない。甘辛いたれが染みているところ。白いところと程よく混ざっている。第一酒 表参道 焼き鳥丼祥子ははまたさらに大きなねぎまの一片を箸でつまんで、口に頬張る。もぐもぐと口を大きく動かして、ビールで飲み込んだ。ご飯にかかったたれは甘辛いが、焼き鳥自体はあっさりしている。肉本来のうまさを味わうために、さらりと醤油味を身にまとっているだけのように思えた。ささみがまたいい。塩焼きにたっぷりのわさび、味が変わって、また食が進む。焼き鳥とビール、ささみ、また、焼き鳥、ビール合間に甘いご飯、さらにさらにビール。そこでつくねに箸を伸ばした。小さめのつくねが三つ、かわいらしく並んでいる。こちらもまた、べたべたと甘いたれではなくて、あっさりと醤油に通しただけのような味付けが、安い居酒屋の焼き鳥とは一線を画している。第一酒 表参道 焼き鳥丼酒を忘れるほど、インパクトのある丼だった。慌てて、一口、かつ丼を食べた口に入れる。豚肉本来の旨さや甘さだって十分なものなのに、それをこってりと甘く煮て、脂を落として旨い角煮を作り、それを揚げてまた脂っこくさせ、でも、あっさりして玉子を付けて。「甘過ぎなくてちょうどいい」だなんて。そして、それに飯の甘みをまとわせ、ワインの渋みで調和し・・・第二酒 秋葉原 角煮丼深さのある丼、上から見ると白いご飯の上に、細長いカツがはみ出すように横に並んでいる。その上に、見ただけでふわふわとわかる、黄色いオムレツが載る。玉子の上にはさらに三つ葉、そしてじっと目を凝らすと同じように黄色で千切りの何かが添え得てある。三つ葉をのけて、オムレツにそっと箸を入れる。真ん中を横に切るように開くと、とろりんだらりんと、玉子がカツの上に広がった。バラ肉やロースほど脂っこくない肉を一センチほどの厚みに切り、煮込んだあと、カツにしているようだった。肩ロースだろうか。一口でおいしいとわかる味、甘くてコクがあって、でも、甘過ぎなくて脂っこ過ぎなくて。角煮をカツにするというと、かなりしつこいものを想像しそうだが、煮たことでほどよく脂が落ち、衣は薄い。第二酒 秋葉原 角煮丼しばらく、かつ丼を食べることに集中する。カツを食べてご飯を一口、玉子で一口、すべてを口に入れてもぐもぐ、そして、赤ワイン。三つ葉がアクセントになる。レモンピールはすべて一緒にするより、角煮かつとご飯のみの時、一緒に食べると、さっぱりしておいしい。食べ進めると、カツのご飯に触れている部分の衣少し溶けてはげていて、タレを吸った衣がべったり張り付いたご飯にを見つけた。ここを食べると、これもまた、甘脂っこい衣とご飯の組み合わせがいい。白飯も少し硬めだが、米の一粒一粒が艶やかで、この料理にぴったりだった。第二酒 秋葉原 角煮丼お待ちかねのスパゲティーグラタンがやってきた。白い耐熱皿の下に同じ白い皿、間に白い紙ナプキンが敷かれている。耐熱皿の上ではまだホワイトソースがぐつぐつ波打っていた。ブロッコリーの緑とエビの薄いオレンジ以外は、見事なくらいの白の競演。添えられたフォークを取り上げ、まずはホワイトソースの端っこをすくってなめてみる。なんだろう、いい感じに、ミルクミルクしたホワイトソースだ。バターというより「乳」のにおいが強い。ぐっとフォークを差し込んで、スパゲティーをすくい上げる。意外に細めの麺。1.3ミリというところだろうか。柔らかめであることは、口にいれなくてもわかる。思わず、声が出てしまうほどの温度だった。しかも、舌の上にのせてもその温度がまったく変わらない。慌てて、口の中をやけどしないように細かく移動させながら味わう。おいしい。あぢ、あぢ・・・柔らかめの麺がこのミルクっぽいホワイトソースによく合う感じ。あぢぢ・・・焼けたチーズとパン粉の風味がいい。やっと飲み込んだところを、レモンハイで冷やす。おいしいなあ。ドリアとも、クリームタイプのパスタとも違う、味わい。マカロニグラタンでもないんだよな。マカロニグラタンのマカロニはグラタンの具の一つな感じ。これはやっぱり、スパゲティーならではのおいしさだ。第三酒 日暮里 スパゲッティーグラタン一切れを大きく切って、口に運ぶ。思った通り、中の肉は少し生で赤い色を見せている。しかし、もちろん、まったく生臭くない。むしろ、肉の本当の旨みを伝えてくれる。柔らかい、けれど、確実な肉々しい味わいと歯触り、たぶん、ほとんどつなぎの入っていないハンバーグなのだろう。なんといっても、肉の味が濃い。上のオニオンソースも肉の味を損なわない、甘みと香り。付け合わせの人参にオニオンソースを絡めて食べた。これもまた、野菜の旨みと匂いがある。肉と一緒に運ばれてきたライ麦パンを勧められた。外はカリカリとして、中はねばりのある柔らかさがあった。そこに少しだけライ麦のこりっとした歯触りが加わる。確かに、こんなに熱々でおいしい焼きたてパンはなかなかお目にかかれない。第四酒 御殿場 ハンバーグやはり鉄製のフライパン型の皿の上に盛られた、石焼きビビンバだった。いや、メニューによれば鉄鍋ビビンバだった。ビビンバの具はモヤシ、ほうれん草、キムチ、それに牛肉のそぼろ、真ん中に卵の卵黄が載っていた。具材や見た目は普通だが、たれに何か秘密があるんだろうか。第四酒 御殿場 ハンバーグ「脂ののった鰯を口に入れると、その脂はさっと溶けるようでした。生臭さなんてほぼないし、身が柔らかいからとても軽いんです。でも、私はそのほんの少しの生臭さと脂を忘れないうちに、というか追いかけるようにして冷酒を飲みました・・・。わずかな脂がさっと流れて・・・すごくおいしかった。」第五酒 池袋・築地 寿司、焼き小籠包、水炊きそば、ミルクセーキ「上の方はしっとりもちもちで、真ん中は普通の小籠包より乾いているんです。やっぱり、焼いてあるから。そこはしっかり硬めです。穴から汁をすすりました。気を付けていたけど、それでも熱いんです。舌と唇をやけどしました。スープは醤油系の味で、それだけでも美味しい。ビールで口を冷やてまた、箸をつけます。ふうふうして少し冷めたのを、やっとちょっとずつかじって、肉にたどり着きました。肉はやっぱり濃厚な味でそれをかりかりした皮と一緒に食べて、ビールを飲んで、どちらも止まらない・・・おいしかったなあ。それから二個目は穴をあけて汁をすすった後、黒酢を垂らしていただきました。こうするとさっぱりして、また味が変わって。」第五酒 池袋・築地 寿司、焼き小籠包、水炊きそば、ミルクセーキ白濁した鶏のスープに中太の麺。上に、鶏のチャーシューが三枚。二枚は茶色い皮がしっかり付いてぶつきりされたもの。一枚は白い胸肉、さらに、白い鶏肉を細くそぎ切りにした肉がのっている。そして、ネギが二種類、青ネギを刻んだのが中央に、その周りに白ネギをぶつ切りして少し煮てあるのが散らされている。見事に鶏づくしだった。鶏スープは濃厚だがしつこすぎない。ラーメン屋でも、濃い鶏白湯スープを売りにしていて、ポタージュのように濃い、箸が立つなんて冗談で言うほど濃厚を売りにしている所がある。あれはれでもちろん美味しい。けれど、ここのは、スープとしておいしいものをほんの少し濃くした感じ。最後まで飲み干せるスープだ。皮の付いた茶色のチャーシューは甘辛い味。けれど甘すぎない、こってりしすぎないのがよかった。スープにも合う。柔らかく、けれど、噛み応えもちょうどいい。これまた、ビールを呼んで、ぐびぐびと飲んでしまう。細くそぎ切りにしてある、白い鶏肉は塩味。こちらは麺と一緒にすすり込むのにとてもいい。そして、特筆すべきはネギだった。刻んである青ネギはスープのいいアクセントだが、ほんの少し煮込まれた白ネギはごろごろと存在感を主張する。第五酒 池袋・築地 寿司、焼き小籠包、水炊きそば、ミルクセーキ運ばれてたオープンサンドを前に、ため息をついてしまう。ハムくらいの直系のソーセージに塩漬けの豚肉の固まりが入っているアウフシュニット、生ハムなど肉類の薄切りとサニーレタス、トマトなどの野菜、黒パンが一皿に盛ってあった。シンプルだけど、美しい一皿だった。本来は野菜とハムをパンに自分で挟んだり載せたりして食べるのだろうが、まずは、アウフシュニットだけを食べてみる。やわらかなミンチ肉の中の、こりこりした歯ごたえが楽しい。ブラウマイスターのビールにもちろんよく合う。第六酒 神保町 サンドイッチレタスのほか、キュウリなども入っているが、キュウリの皮が丁寧にむかれ、口当たりがとても良い。キムチに手を付ける。白菜がきれいに層になっている。外側から箸でつまんだ。甘すぎたり、和風ぽかったりしないキムチ。酸味があって、本格的なのに、辛すぎない。ナムル四種類、ほうれん草、豆もやし、ぜんまい、人参がきれいに並んでいる。これまた、どれもきちんと作られたナムルで、ほうれん草、豆もやし、ぜんまいは定番の味だが、人参は糸こんにゃくが混ぜられた酢の物だった。これは味が変っていい。それに、ぜんまいは筋などはまったくなく、柔らかな上等なものだとわかる。そこに焼き肉の皿が運ばれてきた。白い皿に、サシがいっぱい入ったたれ味の切り落とし肉と塩味のタンが盛られている。そこに長ネギ、パプリカ、シシトウなどの野菜が少し。肉は「切り落とし」の名前にふさわしく、ころころしたような切り方だ。タンにつけるレモン汁は、最後に出てきている。皮をむいた薄切りレモンと一緒に。タンが表面だけこんがり焼けてきた。わくわくしながら、箸でつまみ、レモン汁にたっぷりつける。まずはそのまま一口。柔らかく、でも噛み応えと旨みもしっかりあるタンだ。第七酒 中目黒 焼き肉おいしいがたくさん詰まっていた。ストーリーは別にところにあるけど私はこのおいしそうを楽しみにしてこのシリーズを読んでいる。 ランチ酒 おかわり日和(祥伝社文庫は20-2) www.amazon.co.jp 825円 (2024年01月29日 11:22時点 詳しくはこちら) Amazon.co.jpで購入する ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #料理 #本紹介 #原田ひ香 #ランチ酒おかわり日和