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〇レーエンデ国物語/多崎礼
湯飲みには白茶色の液体が入っている。
表面に黄色い油膜が張っている。
立ち上る湯気から、甘いような渋いような
馴染みのない匂いが漂ってくる。
口に含むのが恐ろしい。
しかしせっかくのおもてなしだ。
飲まないわけにもいかない。
覚悟を決め、ユリアはそれを口に運んだ。
心地よい茶の渋みが口の中に広がる。
滑らかなバターの香りが鼻に抜ける。
焦げ目の付いたシカ肉の串焼き、
貴重な小麦粉を使った白いパン、
木の実と茸をアレスヤギの乳で煮込んだシチューを
椀によそい、木の匙を添える。
ウル族の生活は自給自足。
アレスヤギとカケドリを飼い、
野菜を育て、森の獣を狩り、
木の実を集めて生きている。
主食は黒パンだ。
原材料は小麦ではなくオプストの実だ。
硬い殻を叩き割り、
中身を取り出して乾燥させ、
スグリの実は一日かけて探し回っても
手籠に半分集めるのがやっとという希少な果実だ。
しかも真っ黒に熟している。まさに食べごろだ。
スグリの甘酸っぱい味が口の中に蘇り、
ユリアはごくりと喉を鳴らした。
ひときわ大きな一粒を口に運ぶ。
薄い皮がぷつりと破れ、
甘酸っぱい果汁が溢れてくる。
やわらかな果肉、芳醇な香り、瑞々しい甘み。
冬の間は質素な食事が続いていたが、この日は特別だった。
トリスタンが腕によりをかけてこしらえたご馳走が並んだ。
チーズを挟んで焼き上げた塩漬け肉、
スグリのジャムを練り込んだ小麦のパン、
ハチミツをかけた揚げ菓子はさくさくと甘い。
ふっくらとした卵焼きを頬張れば、
芳醇なバターの香りが口いっぱいに広がる。
勧められるまま椅子に座ると、
待っていましたと言わんばかりに酒と料理が運ばれてきた。
皮がカリカリになるまで炙ったカケドリの丸焼き、
根菜と茸がたっぷり入ったスープ、
潰して丸めて油で揚げた芋団子、
蜜を塗って焼き上げた卵菓子、
目にも鮮やかなご馳走でテーブルが埋めつくされていく。
それと同時に給仕が朝食を運んできた。
根菜のスープ、カリカリに炙ったハム、
ぷっくりとした目玉焼き、
真っ赤に熟れたカリスの実、
チーズをのせて焼き上げた小麦のパン。
温存しておいた小麦パンを焼き、
塩漬けの野菜を煮溶かしてシチューも作った。
この日のために熟成させておいたツノイノシシの肉を焼き、
スグリのジャムをたっぷりと添えた。
蒸かした芋を潰し、
バターとミツカエデの樹液を混ぜ、
丸めて焼いた菓子も作った。
ファンタジーのご馳走はもう大好物!
ヨーロッパ地方の料理も大好きなので
それとファンタジー要素が合わされば
よだれものです・・・。