大石始

文筆家。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」主宰。主な著書・編著書に『盆踊りの戦後史』『奥東京人に会いに行く』『ニッポンのマツリズム』『ニッポン大音頭時代』『大韓ロック探訪記』など。最新刊は2022年11月の『南洋のソングライン 幻の屋久島古謡を追って』(キルティブックス)

大石始

文筆家。旅と祭りの編集プロダクション「B.O.N」主宰。主な著書・編著書に『盆踊りの戦後史』『奥東京人に会いに行く』『ニッポンのマツリズム』『ニッポン大音頭時代』『大韓ロック探訪記』など。最新刊は2022年11月の『南洋のソングライン 幻の屋久島古謡を追って』(キルティブックス)

マガジン

  • みちばた郷土菓子

    • 15本

    緊急事態宣言下の東京で、僕らは各地の郷土菓子のおとりよせを始めた。 ただし、郷土菓子といっても高級な銘菓ではなく、各地域の暮らしのなかで親しまれてきたローカル色の強いもの。音楽でいえば有名な民謡歌手が歌った迫力満点のものではなく、道端のおばあちゃんがふと口ずさんだ鼻歌のようなもの。なんの制限もなく各地を旅しているときだって、道の駅でついつい手が伸びてしまうのは、東京では見かけることもない手作り菓子ばかりだった。 いつまで続くか分からないけれど、それぞれの郷土菓子が作られた土地について思いを馳せつつ、おとりよせ日記を気ままにアップしていこうと思っている。ひとつひとつの菓子をラップで包んでくれた方々に、いつの日かお会いできることを願いつつ。写真/大石慶子

最近の記事

新刊刊行のおしらせ

5月21日に新しい著作が出ます。 タイトルは『異界にふれる ニッポンの祭り紀行』。北は秋田・男鹿半島のナマハゲから南は沖縄・宮古島のパーントゥまで、全国18ヶ所の地域に伝わる祭りや年中行事の体験記です。2016年7月にアルテスパブリッシングから出た『ニッポンのマツリズム』は祭りのリズムやメロディーに軸足を置いていましたが、今回は各地域の風土や精神性に重きを置くようになった2016年以降の旅の記録。来訪神や火の祭りが多いあたりに、僕らの関心の変化が現れているとも思います。

    • 地域の物語と記憶をつなぐもの——地域映画『まつもと日和』を観て

      さきほど長野県松本市を舞台とするドキュメンタリー映画『まつもと日和』(三好大輔監督作品)を観てきた。新宿ケイズシネマで行われている東京ドキュメンタリー映画祭の一環として上映されたもので、最初に書いてしまうと、これが実に素晴らしい作品であった。 現代において地域の記憶や記録とどのように向き合うことができるのか。本作が投げかけるそうした問いかけは、ここ数年、僕にとっても重要なテーマであり続けている。『南洋のソングライン』など近年の著作もそうしたテーマのもとで書かれたものと言える

      • 僕がやってるのは「シマ唄」ではなく、「シマの唄」なんですよ――奄美大島の「根っこ」を歌う森拓斗

        2023年11月、僕は奄美大島にいた。38年前にこの世を去った里国隆という放浪芸人に関する取材をするためで、約1週間、国隆をよく知る親族や関係者に話を聞くべく島の北部と中部を慌ただしく行き来した。死から時間が経過しているため、証言者を探し出すのはなかなか苦労したものの、それでも島に行くまではまったく知らなかった証言を得ることもできた(取材の成果は現在制作を進めている国隆の評伝としてまとめる予定だ)。 国隆は型破りなパフォーマーでもあった。奄美群島や沖縄本島の路上に陣取り、三

        • 戊辰戦争から生還した兵士たちが伝えた「白河踊り」(山口県萩市など)

          文・大石始 証言:中原正男(『⽩河踊り 奥州⽩河からふるさとへ伝えた盆踊り』 著者)  あるとき『白河踊り 奥州白河からふるさとへ伝えた盆踊り』(書肆侃侃房)という一冊の本を手に入れた。その本では山口県各地で白河踊りという盆踊りが行われていること、しかもヤットセ踊りやヤンセ踊りなど類似するものも含めれば、かなりの数の白河踊り系統の盆踊りが踊られていることが詳細に記されていた。  では、「白河」とは何を意味しているのだろうか。山口県内に「白河」という土地があるわけでもなければ

        • 新刊刊行のおしらせ

        • 地域の物語と記憶をつなぐもの——地域映画『まつもと日和』を観て

        • 僕がやってるのは「シマ唄」ではなく、「シマの唄」なんですよ――奄美大島の「根っこ」を歌う森拓斗

        • 戊辰戦争から生還した兵士たちが伝えた「白河踊り」(山口県萩市など)

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          15本

        記事

          宇部の気概と結びついた歌――「南蛮音頭」(山口県宇部市)

          文・大石始 証言・資料提供:中本義明(宇部南蛮音頭保存会)  宇部の町に降り立つと、大きな煙突からもくもくと蒸気が立ち上る風景が目に入った。明治30年(1897年)に創設された沖ノ山炭鉱を原点とする総合化学メーカー、宇部興産の発電設備の煙突だ。宇部は同社の企業城下町として発展してきた背景があり、そびえ立つ煙突はそのことを誇示しているようにも見えた。  その町の日常風景において何が中心に存在しているのか。山があるのか、海があるのか、あるいは高層ビルがあるのか。風景の中心に存在

          宇部の気概と結びついた歌――「南蛮音頭」(山口県宇部市)

          明がらす(岩手県遠野市)

          原材料:米粉、砂糖、でん粉、水飴、小麦粉、くるみ、ごま、大豆(きな粉)、大豆油 製造・販売:まつだ松林堂 販売:まつだ松林堂 https://www.akegarasu.com/ 2022年11月、岩手県遠野市を訪れた。岩手の地に足を踏み入れるのは10年近く前に盛岡を訪れて以来。東北の寒さに怯えるあまり、かなりの冬支度をしてきたものの、11月の遠野はそれほど寒くはなかった。東京から持ってきた分厚いダウンジャケットが煩わしく感じられるほどだった。 遠野といえば、まず連想する

          明がらす(岩手県遠野市)

          秋田の過疎地に鳴り響く、祈りにも似たルーツ・ロック・レゲエ――英心&The Meditationalies

          秋田に英心 & The Meditationaliesというバンドがいる。音楽的にはレゲエを軸にしているものの、あちこちに仏教的要素は入っていたりと、かなりの個性派であることは間違いない。 僕は数年前までミュージックマガジンの年間ベスト・レゲエ部門を鈴木孝弥さんと担当していたが、英心 & The Meditationaliesのファーストアルバム『からっぽ』を2015年度(日本)の1位に選出した。ジャマイカという異国の音楽を東アジアの地でどのように吸収し、なおかつこの列島の

          秋田の過疎地に鳴り響く、祈りにも似たルーツ・ロック・レゲエ――英心&The Meditationalies

          『南洋のソングライン 幻の屋久島古謡を追って』を書き終えて――もうひとつの「あとがき」

           自分のことを語るのはあまり好きではない。インタヴュアーとして多くの人々と向き合ってきたためか、どうも聞き手としてのスタンスが身について離れないところがあるのだ。友人たちと酒を呑んでいてもいつのまにか聞き手に回ってしまうし、いい年をして「僕の話なんか誰も聞きたくないんじゃないか」という中二病めいた思いが拭えないこともまた、自分語りが苦手な要因ともなっている。  2022年11月に刊行された著作『南洋のソングライン 幻の屋久島古謡を追って』でも、その点は変わらない。屋久島を旅し

          『南洋のソングライン 幻の屋久島古謡を追って』を書き終えて――もうひとつの「あとがき」

          Tribute to RAS DASHER――齋藤徹史(REGGAELATION INDEPENDANCE)、1TA(Bim One Production)インタヴュー

          2021年4月、90年代以降の日本のレゲエ・シーンにおいて強烈な存在感を発揮してきたひとりのシンガーがこの世を去った。彼の名はRAS DASHER。90年代前半にはMIGHTY MASSAを中心に結成されたルーツレゲエ・バンド、INTERCEPTORに森俊也、LIKKLE MAI、井上青、秋本武士など後にシーンの核を担うことになる面々と共に参加。90年代半ば、MIGHTY MASSAが始動させたニュールーツ・スタイルのサウンドシステムでマイクを握ると、90年代後半には満を持し

          Tribute to RAS DASHER――齋藤徹史(REGGAELATION INDEPENDANCE)、1TA(Bim One Production)インタヴュー

          地元と病室で育まれた日常のサウンドトラック——MaLの初ソロアルバム『Primal Dub』

          インタヴュー・文/大石始  高田馬場の九州料理店「九州珠 (KUSUDAMA)」でMaLさんに会うことになった。MaLさんの出身地は東京の練馬区だが、この町に20年以上住んでいることもあって、今のMaLさんにとってはこの町が地元なのだという。  店にやってきたMaLさんは杖をついていた。2021年6月、彼は全治9か月の大怪我をし、2か月半もの入院を余儀なくされる。昨年末にリリースされた『Primal Dub』という作品は、その入院期間中に制作された作品だ。  MaLさんは

          地元と病室で育まれた日常のサウンドトラック——MaLの初ソロアルバム『Primal Dub』

          ローカルとローカルを繋ぐスカのリズム――TOP DOCA(こだまレコード)インタヴュー

          インタヴュー・文/大石始 写真/大石慶子 静岡から一枚のレコードが届けられた。封を開けると、インクのほのかな匂いが鼻をついた。シルクスクリーンで印刷されたジャケットは、たった今印刷所から上がってきたばかりという艶やかな光沢を放っている。レコードに針を落とすと、温かなスカのリズムが鳴り始めた。 こだまレコードの『こだまレコード1』。このLPは2015年から2019年にかけて同レーベルからリリースされた12枚の7インチシングルからコンパイルされたもので、「ジャマイカン・オール

          ローカルとローカルを繋ぐスカのリズム――TOP DOCA(こだまレコード)インタヴュー

          まめぼっくり(鹿児島県奄美市)

          原材料:ピーナッツ、黒糖 製造:西郷松本舗 販売:オーガニック&ナチュラル寿草 https://item.rakuten.co.jp/juso/sgm_001a/ 奄美大島を訪れると、僕らはまず「まめぼっくり」を買う。ひとつのパッケージに入っている量はわずかだが、一度食べ始めると二袋、三袋とリピートしてしまい、気がつくとレンタカーのダッシュボードには空き袋がいくつも転がることになる。 まめぼっくりのような黒糖菓子は奄美大島ではポピュラーで、複数の商品が発売されている。僕は

          まめぼっくり(鹿児島県奄美市)

          かんころ餅(長崎県五島列島)

          原材料:干し芋、もち米、砂糖 製造者:川上文旦堂 販売:日本橋 長崎館 https://www.nagasakikan.jp/index.html サツマイモは米作には不向きな土地でも栽培できることから、かつては多くの人たちを飢餓から救った。とりわけ耕作地が限られている島嶼部では威力を発揮。たとえば、平地の少ない屋久島では古くからサツマイモ(屋久島ではカライモと呼ぶ)の栽培が盛んで、朝昼晩三食がカライモ、三時のおやつにもカライモが食されたという。 長崎の五島列島も例外では

          かんころ餅(長崎県五島列島)

          ほし餅(秋田県横手市)

          原材料:もち米(秋田県産100%)、着色料(ラック、クチナシ) 製造者:佐忠商店 販売:秋田県物産振興会 楽天市場店 https://www.rakuten.co.jp/akitatokusan/ 餅は最強のエナジーフードだ。古来から米粒には稲の霊力(稲魂)が宿ると信じられ、それゆえに米粒を凝縮した餅や酒は特別な存在とされてきた。民俗学者の神崎宣武が「『まつり』の食文化」(角川選書)のなかで「それをカミに供え、そののちに人びとが食べることによってイネの霊力が人びとに移り

          ほし餅(秋田県横手市)

          笹巻き(山形県米沢市)

          原材料:餅米(国産)、砂糖、きなこ(大豆)、食塩 製造:蔓寿屋 販売:道の駅米沢オンラインショップ https://shop.michinoeki-yonezawa.jp/ ツルで頑丈に縛られた笹の葉をほどくと、光り輝く餅米が姿を現した。砂糖の入ったきな粉を振りかけ、ガブリとかぶりつくと、大昔に食べた何かに似ている。記憶のはるか彼方から味覚をたぐり寄せていくと、そうだ、祖母が作ってくれた七草粥である。 そのことを妻に話すと、「七草粥に砂糖なんて入れない」と一蹴。中野出身

          笹巻き(山形県米沢市)

          「亥の子」(徳島県三好市井川町)

          原材料:小麦粉(国産)、黒砂糖、水飴/膨張剤、赤色102号、青色1号、黄色4号 製造:島尾菓子店 販売:三好やまびこふるさと会 https://www.miyoshi-yamabiko.jp 製造元である島尾菓子店の所在地をGoogleのストリートビューで見てみると、味わいのある古民家が立ち並ぶ通りの一角に、その菓子店はあった。店の中までは見えないが、掲げられた看板には「みのだようかん・生菓子製造」という文字。ふと立ち寄った町でこんな看板を見かけたら、ふらふらと吸い込

          「亥の子」(徳島県三好市井川町)