解決したいデイサービスの課題について
前回のnoteで、しゅうへいが書いていたようにぼくたちは今、3つの壁にぶつかっています。
1つ目がお金、2つ目が人、3つ目が制度の話。どれも、なかなか一筋縄ではいかない壁です。
今は、その壁を越えるための準備期間。外部の人にも僕たちがやること、その背景や目的がきちんと伝わるように、改めて三人がなにをやりたいと思っているのかについて話し合っています。
今回のnoteでは、そのことについて書いていきます。
僕たちがやりたいことを簡単に言うと
すごくざっくりとですが、僕たちがやりたいことをまとめると次のようになります。
【① デイサービスの背景】
これまでのデイサービスは、大規模な施設でなければ経営が難しいこと、介護業界の人材不足、リスク管理などの観点から滞在空間や活動内容が画一的になりやすい。
【② 課題と仮説】
画一的な活動や滞在空間では、利用者の主体的な活動を引き出すことが難しく、生活機能の維持や向上に限界があり、その結果、介護費の増大につながる可能性がある。
【③ 目的とアクション】
上記の課題を解決してデイサービスの選択肢を増やすために、次の3つを軸にした場をつくる。
(1) 利用者の趣味や創作を中心とした主体的な活動のサポート
(2) 利用者の気分やニーズに合わせた滞在空間のデザイン
(3) 活動の多様性を生み出す地域を巻き込んだ場づくり
やりたいことを具体的にいうと
① デイサービスの背景
現状のデイサービスの課題を考えるにあたり、これまでの歴史を振り返ってみます (参考) 。
デイサービスが始まったのは1979年。それ以前は入所系の介護が多かった日本では、この時期を境に住み慣れた地域での介護に力点をシフトしていきます。在宅で介護できる体制を整えるために、日帰りの通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)などの基盤が整えられ始めました。
1989年には、在宅福祉対策を急速に進めていくため高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)が策定され、1999年までにデイサービスは施設数を10倍にすることを目標に掲げられました。これを機に、デイサービスはより一般化していきます。
そして、介護の歴史の大きな転換期となったのが2000年。この年に、これまでの高齢者福祉の考え方を変える介護保険制度がスタートします。
それ以前は、介護は行政側がサービスの内容を決める公費としての措置制度を基本としていました。そのため、利用者がサービスを選択できないという問題がありました。この時期の日本は、急激な高齢化だけではなく、核家族化の進行、少子化などの複層的な問題が浮き彫りになってきており、介護サービスのニーズはさらに高まってきていました。
これを解決する土台として、介護が必要な高齢者の介護費用を国民で分担する介護保険制度がスタートしました。介護が必要になったとしても、できるだけ自立した生活を送ることができるように、介護サービスを自ら選択することができるようになったのはこの頃からです。
2000年以前は、介護サービスの主体は国でした。実際の担い手は、国から委託を受けた社会福祉法人が高齢者福祉の担い手になることがほとんどでした。2000年以降、介護保険制度下では基本的に行政は介護サービスの主体ではなくなり、営利法人も含めて多様な事業者が介護サービス市場への参入が可能になりました。
それを境にして、2000年に約1万施設だった事業所は、2010年には3万施設まで急増 (参考)。さらに2015年には、4万施設にまで増加します (参考) 。
また、通所介護市場が民間企業にも開かれたことから、デイサービスの選択肢も多様化し、リハビリに特化したデイサービス等が増えてきました。
増加一途の流れが変わったのは2015年。この年の介護報酬の改定によって、小規模な通所介護施設(地域密着型)の報酬が大幅にマイナスとなりました。これを受けて、小規模な事業者が減少していきます。一方で大規模な施設では、マイナスの報酬改定があったものの、規模を活かした効率的収益の確保が可能であり、この年からも事業所数は微増していきます (参考) 。
そして現在に至るまで、デイサービスの数は基本的には横ばいとなっており現在は約4万5000施設が日本にあります (参考) 。
近年は、リハビリだけではなくエンターテイメント要素を盛り込んだ施設やユニークな切り口のデイサービスを誕生してきていますが、まだその数も多くありません。
② 課題とその仮説
ぼくたちは、現状のデイサービスの課題は「一部の利用者にとって、多くのデイサービスは主体的に活動に参加することが難しく、生活機能の維持や向上に限界があること」だと捉えています。その結果として、介護費用の増大につながっている可能性があるのではと考えています。
その要因として、次のような3つの仮説を立てています。
仮説1. 集団体操やレクなど大人数で同じ活動になりやすい
すべてのデイサービスではありませんが、規模が多くなるほど集団での活動やレクなどの大人数で同じ活動をする傾向は強くなるように感じています。
これはおそらく、前述の小規模施設の減少や人材不足の流れもあって、今後もしばらくは続くだろうと考えています。
もちろん大勢の活動は、その場を積極的に楽しめる利用者の方にとってはとても良い過ごし方です。一方で、その活動に馴染めない方にとっては、その時間を苦痛に感じてしまい、結果として、ネガティブな感情や活動量の減少につながるのではないかと考えています。
仮説2. リスク管理の観点から画一的な空間になりやすい
デイサービスの空間は、少ない人員で多くの利用者の方をみる必要があるため、見通しのよい空間が基本になっています。また、建築やインテリアについては、リスク管理のために「心地よい空間」よりも「安全な空間」が最優先されることが多いと感じています。
最低限の安全はもちろん担保するべきですが、その空間にいて心地いいと思えること、またその場にいて何かやってみようと思えるきっかけがあることが大切なのではないかと考えています。
仮説3. デイサービスと地域とのコミュニティに隔たりがある
これは僕自身の個人的な経験からの仮説ですが、これまでのデイサービスという場は、介護が必要な方以外にとって、ほとんど認知されていないように感じています。
利用者の心理的な安全を確保するためか、あるいは激務の中で時間を取るのが難しいからか、地域の方が出入りするようなきっかけやイベントづくりが難しいのかもしれません。
ここ数年、地域の方も気軽に参加できるようなきっかけをつくっている介護施設やケアの取り組みを見ると、そのことを起点に介護に対する印象が変わったり、自分ごととして捉えて身近にできるアクションを起こすことができるのではと考えています。
③ 課題解決のためのアクション
ぼくたちがやりたいことを抽象化していくと「デイサービスの選択肢を増やすこと」になります。
先ほど仮説で書いたような、大規模な施設やリスク管理が徹底された施設があることが大前提として大切です。ぼくたちはその前提の上に、従来の通所介護に馴染めなかった人たちも、ここなら行きたい、一緒になにかやってみたいと思えるデイサービスをつくりたい。
そのために、次の3つのことを軸にした今までのデイサービスとは少しだけ違う、そんな場所をつくります。
(1) 利用者の趣味や創作を中心とした主体的な活動のサポート
ちか、しゅうへいの二人は生活機能を評価とアプローチの専門家である理学療法士です。しゅうへいは現在、介護が必要な方の旅行支援なども行なっています。
その専門性を活かしながら、利用者の方の創作や趣味活動、スポーツ、旅行などの本人が主体的にやってみようと思える活動をサポートし、心身機能の維持向上だけではなく、活動への効果的なアプローチ(記録や対話など *1)、社会参加のきっかけ(地域への発表の場をつくることや、⚪︎⚪︎へ旅行にいくなどの目標設定等)をつくっていきます。
(2) 利用者の気分やニーズに合わせた滞在空間のデザイン
ひとつの空間に多くの利用者さんが集まって長時間過ごすのではなく、少し人目から離れたい時は、ゆっくりできるラウンジで過ごしたり、創作活動や作業をしたい時はアトリエを利用したり。利用者さんが気分によって過ごす場所を選ぶことができる空間をデザインします。
京都市や淡路島で宿泊施設や飲食店を運営している、ぼくの勤め先のデザイン会社NINIと一緒に、コンセプトや利用体験イメージを空間を通して形にしていきます。
(3) 活動の多様性を生み出す地域を巻き込んだ場づくり
施設入口は、地域住民も利用できる縁側ライブラリを設置する予定です。利用者の滞在との境界は設けつつも、地域の人が本を購入したり、雑談したり寄り合えるきっかけをつくります。
また、将来的には地域の住民の方によるイベントやポップアップなどでこの場を使うことも考えています。間接的に介護に関わる人が増えることで、そこから新たな活動が生まれたらいいなと思います。
終わりに
このような3つのことを軸にして、今ある課題の要因をひとつずつ紐解いていき、ぼくたちがつくるデイサービスが今後の介護の選択肢を少しずつ増やしていくことにつなげていきたいと考えています。
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